後輩寝取られ二話 (Pixiv Fanbox)
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穂乃香が新聞部に入部してから三週間が経った。
記事を書かせてみたり、単独で取材に向かわせたりとあれこれ試してみたが、入部直後の自分では到底足元にも及ばない水準にまで達していた。
「できましたね、先輩!」
穂乃香が長机に広げているのは、完成したばかりの新聞だった。
魁人が一人でやっていたときは一ヶ月に一回の発行がやっとだったが、今回は二週間ですべての作業を終わらせることができた。
あとは印刷と掲示を残すのみだった。
「ああ、今回は芦澤さんもいたからいいペースで作れたよ、本当にありがとう」
「そんな、私なんてまだまだです……」
手で顔を仰ぐ仕草は照れ隠し、一緒にいるうちに彼女の人となりも何となくだがわかってきた。
字は丁寧で文章の作りもしっかりしているがタイピングは遅い、お茶よりジュースのほうが好き、音楽の好みは割とマニアック、夜は十二時前に寝る……作業を二人きりでするということもあり、いろいろな話をした。
ここまで自分のことを話し、相手のことを聞いたのは初めてだった。
「そうかな? 入ったばっかりの頃は僕なんて面白い以前の問題で日本語としてどうかっていうレベルだったからね、それに比べると十分すごいと思うよ」
穂乃香は目を細めて嬉しそうに新聞を見ている、その隣に立つと柔らかな風に乗って甘い匂いが伝わってきた。
リンスと香水の混じった、初めて嗅いだ匂いだった。
距離が近づくと動きも、言葉もぎこちなくなってしまう。
恋愛経験もなければ、仲のよい異性の友人もいない。
そのせいか屈託なく接してきてくれる穂乃香に強く惹きつけられる自分がいた。
もっとも、向こうは魁人のことをどう思っているか、小首をかしげて笑みを浮かべるその仕草からは読み取れなかったが。
「先輩の教え方が上手だからですっ、で、これ……いつ貼りに行くんですか?」
「そうだな、やっぱり早いほうがいいよね。今から倉庫に行って必要な物を取ってくるから」
「なら私も行きます、場所覚えておいたほうがいいと思いますし」
それもそうか、と頷きながら納得して、上の階にある倉庫へと向かうことにした。
※※※
「うっ、かび臭いですね」
「掃除する人もいないだろうからしょうがないよ」
埃まみれのレールの上を扉が滑る、倉庫は教室と同じくらいの大きさだが、机などはなく、所狭しと棚が並んでおり、通路にはダンボールが無造作に置かれていた。
どこもかしこも埃が分厚く積もっており、うっかり触れただけで手も制服も灰色に汚れてしまいそうになる。
「よく使うんですか、ここ?」
「画鋲とか取りに行く時だけかな……」
奥にある小さな箱を開けると、ドラフティングテープと画鋲、そして別の棚からA3のコピー用紙とガムテープを取り出した。
穂乃香は無造作に積み上げられた本のページを興味深そうに一枚ずつめくっている。
何枚かめくったところで手のひらをひっくり返して眉間に小さく皺を寄せる様子はなんとも愛らしかった。
「あとは、コピー用紙とかマジックとか共同で使うものはここに全部置いてあるから…………手、洗ってきたほうがいいよ」
「……わかりました、そうします」
一足先に出て行こうとする穂乃香の小さな背中に声をかける、振り向きざまに見えた丸い頬がかすかに持ち上がった。
「先に下で待ってるからね!」
「はーいっ!」
※※※
印刷室にあるプリンターで記事をA3の用紙にコピー、それを二つつなげて新聞を完成させた。
穂乃香に備え付けのパソコンを操作させている間、魁人は次々と出てくる紙をガムテープで貼り付けて一枚にしていく。
終わった頃には十枚以上の新聞ができていた。
「あとは古い新聞の貼ってあるところに差し替えるだけだな」
印刷室を出たすぐのところにある掲示スペースに一枚、穂乃香に手本を見せるように、紙をまっすぐ押さえながら画鋲を一つ一つ刺していく。
別のスペースでも同じように、他のプリントと位置を合わせて見栄えをよくした上で画鋲やテープで固定する、その繰り返しだった。
作業を進めるにつれて空は暗くなり、日差しがなくなった分むき出しの腕を撫でる風も冷たくなろうとしていた。
「やってみる?」
「はいっ、えっと、んっ……届かない」
やはり背が低い分だけ大変みたいで、踵を上げて限界まで背伸びしてようやく画鋲を指していた。
それでもまだ届かないみたいなので、紙を支えてもらって画鋲で留めてやる。
真後ろに立ったとき、穂乃香の肩が震えた気がした。
「すみません。んっ、そういえば、知ってますか……この学校の七不思議のこと」
「七不思議? ああ、前に特集組んでやったな。最後の一個が人によって話が違うから苦労したけど」
「最後の一つって、空飛ぶホルマリン漬けのことですか?」
「いや、僕が書いたのは壁の中に骨が埋まってるって話。適当なこと書くなって先生に怒られたけどね……七番目の話については、本当のことがばれるとまずいから先生が意図的に嘘の話をばらまいてるって噂も聞いたことあるな」
「それ、本当なんですか?」
「そこまではわからないな、興味深い話だと思うけど……」
その後も話をしながら作業を続け、昇降口近くのスペースに最後の一枚を貼り付けようと画鋲を取り出したところで背後から肩を叩かれた。
「今月はずいぶん早いな」
「……何だ、沢木か。ああ、新しい子が入ったからな、おかげですっかり楽になった」
そこにいたのは同じクラスの沢木だった、席が近いということもありよく話す仲だ。
隣にいる穂乃香が気になっているのか、貼ったばかりの新聞記事と交互に彼女に視線を送っていた。
「この子か? めちゃくちゃ可愛いじゃん」
「…………芦澤穂乃香です、よろしくお願いします……先輩のお友達ですか?」
「うん、そんなところかな」
「沢木です、芦澤さんか……よろしくね。こいつ結構女の子から人気あるから付き合うなら早いほうがいいよ、まだ予約受付中だろ?」
面と向かって可愛いと言われたことで頬を赤くする穂乃香。
しかし沢木の言葉はこれにとどまらない、軽口めいたそれが二人の間を気まずい沈黙で埋め尽くす。
「おい、予約ってなんだよ、僕と芦澤さんは……!」
「…………」
「わかってるって、冗談だよ冗談。でもほんとうに可愛いな……男子から声かけられたりするんじゃない?」
「よ、よく言われますけど……そういうの全然ないですから。私、地味だし、背も低いし、眼鏡ですから……」
”よく”という言葉が棘のように心に引っかかる、穂乃香のコンプレックスについてはたびたび話を聞く機会があった。
もっとも、魁人からしてみれば彼女が短所だと認識している部分は、真面目さと清楚さを併せ持ちながら、幼女じみており愛らしさの塊だと長所として捉えており、話が噛み合わないこともあった。
「そうかな? まあいいや……安川、わざわざお前のところに来てくれたんだからな、大事にしてやれよ。新しく入ってきたのこの子だけなんだろ?」
「……ああ」
沢木が下駄箱に向かうと、空間から声が消えた。
穂乃香は頬を桜色に透き通らせて落ち着きなく魁人に目配せを行なっている。
朝洲というバスケ部員と話していた時も同じ事を考えたが、どうやら彼女はほめられるのに弱いみたいだった。
「…………」
「…………」
魁人も何度か褒めたことはある、だがそれは編集能力や文章力、取材の正確さであって容姿ではなかった。
こういった部分を褒めると、確かに目元が少し下がり嬉しそうに笑うのだが、さっきのように顔を真っ赤にし、身体をもじもじとさせながら指をもつれさせたりと恥じらいを表に出したりはしない。
しかし、面と向かって可愛いというのはさすがに気恥ずかしかった。
今もそういう言葉を口に出そうとすると、舌が石と化し喉の奥から湧き上がる言葉を封じる。
飲み込めばまた元に戻るが、沈黙が支配する中で気の利いた一言が口に出せるほど器用ではなかった。
「先輩、終わりました、けど……」
眼鏡の奥でほんのりと潤んだ大きな瞳が魁人を見上げていた。
自分がぼんやりと考え事をしている間に穂乃香が作業を終わらせてくれていた。
助かったと思う一方で、こっちの考えていたことが見抜かれていないかと背中に冷たいものが走った。
「……あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事してた、今日はもう終わりにしようか、たまにはゆっくりしたいし」
「そうですね、私もちょっと買いたいものがあるので」
蛍光灯が照らす廊下は、昼とは全く違って見えた。
水っぽい光を浴びた穂乃香の横顔はひどく人形めいて見えた。
※※※
帰り支度を終えて昇降口に戻ってきたところで、魁人が忘れ物を取りに部室に戻ってしまった。
下駄箱前でできたばかりの新聞を眺めながら待っていると、「穂乃香ちゃん、どうしたのこんなところで」
「あ、えっと……先輩待ってるの、忘れ物しちゃったみたいで。朝洲君は?」
「今日は部活休みだからさ、もう帰ろうかなって」
背の高い直久に顔を覗きこまれた。
黒い瞳に吸い込まれてしまいそうになり、身体の力が抜けていく。
魁人と一緒にいるときには強く感じる胸の高鳴りが手足を縄で縛り上げる。
「顔赤いけど、大丈夫? 熱とかないよね」
「う、うんっ……ちょっと、暑いだけだから、ひゃんっ!」
整えた前髪をくぐり抜けて、直久の手のひらが額に覆いかぶさった。
送り込まれる温もりが心臓の鼓動をさらに高鳴らせる。
指が離れても、熱が余韻となりいつまでも肌の上を舐め回し続けていた。
「あ、ごめん、熱ないかどうか確かめただけだから」
「いいよ、気にして、ないから。もう……びっくりしちゃった」
本当は気にしていた、少し身体をずらして直久から一歩だけ後ずさる。
緊張が薄れると並ぶ言葉も滑らかさを取り戻した。
「だったら今度からは、触るねって言ってから触ることにするよ」
「えっ、触るの前提なの……?」
また触られたら……頭の中で自分に近づき、手を伸ばしてくる直久のイメージが鮮烈になった。
脳裏に浮かぶ映像、触られるのは額だけではない、頬を滑り、顎から首筋へ、そして鎖骨から……
「嘘だよ、嘘。勝手に触ったらあの人に殴られちゃいそうだし」
直久の言葉が想像を霧散させる、知らない間にさらに二、三歩後ろに下がっていた。
距離を取りすぎたことに近づいて、もう一度前に足を踏み出す。
近づいて顔を上げる、頬に汗が一滴伝い落ちていた。
「あの人?」
「ほら、新聞部の……」
「先輩のこと? 殴ったりはしないと思うけど」
「さすがにそこまではしないか、いい人そうだし……もう一回、よっと」
「きゃっ! だめだよ、もう……っ」
直久の指が肩を滑る、ブラウスを挟んで感じるくすぐったさに、不快に思う前に笑ってしまった。
しかしそれと同時に緊張が身体中を駆け巡った。
二の腕辺りにまで歩を進めた人差し指を手でかるく制してそっぽを向く。
もっとも、頭を掻きながら見せる申し訳なさそうな笑顔が嫌悪感も怒りもすべてどこかに吹き飛ばしてしまうが。
「やりすぎちゃったかな、でも……穂乃香ちゃん可愛いから触りたくなっちゃうんだよ。」
「……そんなふうに言ったってだめだからね」
「あの人だって同じようなこと考えてるかも」
「先輩は……どうなのかな」
部活以外であまり異性と接する機会のない穂乃香でも、直久が自分を嫌っていないのはわかった。
魁人はどうなのだろうか、直久と話をしているときはいつも魁人のことを考えてしまう。
「そうなんだ、まあ……セクハラみたいなものだし、普通やらないか」
「朝洲君は、他の女の子にもこういうことしてるの?」
「まさか、穂乃香ちゃんだけだよ」
「どうして?」
「それは、その……ちょっとくらいなら、許してくれそうだからかな」
目を見開いて答えを待っている自分がそこにはいた。
だが、直久の口から出たのはあまりに当り障りのない答え、落胆のあまり持ち上がっていた手も落ちていく。
肩透かしを食らって、自然と唇も尖ってしまう。
「えー、何それ。今度から絶対に許してあげない」
「大丈夫だよ、もうしないから。……あの人遅いんじゃない? 忘れ物取りに行っただけでしょ?」
「そうだね、何忘れたのかな」
「もしかして女の子に声とかかけられてるかもね、ああいう知性がにじみ出てるタイプって好かれやすいから」
「そうなんだ、確かに先輩優しいし、頭もいいし……」
先週、魁人と似たような話をしたことを思い出す。
もてるんじゃないかという穂乃香の言葉に対し、魁人はあっさりそれを否定した。
しかし真実は定かではない、一緒にいるときはいろいろな話をしているが、プライベートな部分までさらけ出しているわけではなかったからだ。
主張のはっきりとしている直久とは異なり、肝心なところで本音を見せない魁人に距離を置かれているような錯覚を受けたのも一度や二度ではない。
「俺は穂乃香ちゃん一筋だけどね」
「やだっ、変なこと言わないで」
どこまでも押してくる直久、威圧されているわけでも嫌なわけでもないのに、背中に掲示板を感じた。
ぶつかった反動で前のめりに、よろけそうになったところで手が差し伸べられた。
「大丈夫?」
「ごめん……ありがとう」
二の腕に食い込んだ指は、穂乃香が姿勢を戻すと力を失って離れる。
前髪が汗で額に張り付く、手の甲で拭うとわずかに濡れていて、当たった風の冷たさを引き立てる。
「そうだ、昨日のメールのことなんだけど……」
真っ暗なトンネルを抜けた時のように視界が一気に広がり、穂乃香の意識が現実に引き戻される。
手の甲の汗はすでに乾いていた。
「えっと、何だっけ?」
「ほら、あのCDが見つからないって」
「あ、そういえば……」
メールアドレスを交換してから、穂乃香はたびたび直久とメールでやり取りしていた。
他愛もない話が多かったが、魁人とは違い、好みが似ていることも多く、つい夢中になってしまうこともあった。
昨日はめったに手に入らない輸入物のCDの話になり、注文しても結局手に入らなかったと話した覚えがある。
「俺持ってるよ、手に入れるのすごく苦労したけど」
「うそっ、すごいね!」
「明日持ってくるからさ、よかったら貸してあげるよ」
「いいの? ありがとうっ!」
自分でも声が大きくなるのがわかった、壁、天井に反響した自分の声に恥ずかしさを覚え、身を縮こまらせる。
「いいよ、穂乃香ちゃんだったら大事に聞いてくれそうだし、CDとかDVDとかに傷とか汚れとか付けられるのってあんまり好きじゃないから」
「そうだね、私も同じかも……っ」
直久の右手が二の腕から肩にかけてさり気なく触れてくる、探り立てる指の動きが声を、呼吸すらも押さえつけてしまう。
立ち尽くしていればそれを肯定のサインと受け取ったか、手指が首筋めがけて上り始めた。
緊張は手枷足枷だった、振りほどくことすらできずされるがままになり続けた。
「ど、どうしたの?」
「穂乃香ちゃんに触ってると落ち着くから」
「え、だ、だめ……だよ、朝洲君。そんな……っ」
「俺のこと、名前で呼んでよ、せっかく仲良くなれたんだからさ」
ここで、足音が二人に割って入るように廊下に響き渡った、直久の手もさすがに離れる。
大きくなる音の方向に顔を向けた、近づいてくる魁人に助かったという気分からか深く、大きく息をついてしまう。
「あ、先輩……」
「ごめんね、ちょっと先生に呼び出されちゃって……朝洲君も一緒だったのか」
「じゃあ、俺はこれで……邪魔になっちゃいますからね」
悲鳴を上げて逃げるべきだったのだろう。
もし魁人が来なかったら何をされていたのか……おぞましさが皮膚の中を駆け巡るとともに、身体は火照り、引いたはずの汗が甦る。
「………………」
「行こうか……芦澤さん?」
「はぅっ、は、はい」
「朝洲君と何話してたの?」
「えっと、いろいろ……」
「…………何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」
見られていたのかもしれない、もしかしたら無理矢理触られたと勘違いしているのかもしれない。
思考が渦を巻き、穂乃香を混乱の深みへと追いやる。
「…………」
魁人の横顔を見上げる、目や唇、鼻の動きを見るが不安や怒りの色はわずかたりとも存在しない。
夕明りが照らす端正な顔、時折向けられる笑顔を盗み見る。
魁人が、直久のように積極的に迫ってきたら……妄想が彼の声も、周囲の雑音も、地面の感触も全てあらぬところへと追いやってしまう。
※※※
手の中には、穂乃香の柔肌の触り心地がまだ残っていた。
もう一度触れたい、あの温もりと弾力を自分のものにしたい……その思いが高じて、駅までの道を歩く二人の後を付けさせてしまう。
傾きかけた日が、水色にオレンジ色を混ぜる。
様々な色の絵の具を溶かしたような色の空の中、距離を保ちながら直久は二人の会話に聞き耳を立てる。
「…………」
「…………」
何を話しているかまでは聞こえなかった、ただ、穂乃香が買い物に行くために電車に乗るということだけは、断片的に聞こえる会話が教えてくれた。
「電車、か……」
この時間は、帰宅ラッシュともぶつかり車内の混雑はピークに達する。
人ごみに紛れれば胸は無理でも、お尻くらいは気付かれずに触れるかもしれない……着替えを覗いたときに見たむっちりとした下着越しのお尻を思い出す。
下手に手を出して警察に突き出されるのは避けたかったが、穂乃香の着替えを覗いたときから毎日のように下着姿を思い出してはオナニーに励んでおり、眼前に突きつけられた好機が直久の衝動を煽り続ける。
短めのスカートから形を浮かばせている大きなお尻にこびり付くような視線を這わせつつ駅までついていき、ホームでは舌なめずりをしながら人を挟んで後ろに立ち、電車が来るのを待ち構えた。
「んっ、すごく混んでますね……」
「この時間はしょうがないよ」
足の踏み場もないほどの人の波、直久はスーツ姿の太った中年男性を間にして穂乃香の後ろに立つ。
よほど暴れたりしない限りお尻を触ってもこの中年に触られたと勘違いするだろう。
もっとも、何を買いに行くか……すなわちどこで降りるかまではわかっていない。
仕掛けるにしても早いほうがいいと、混雑の間を縫って右手の甲を穂乃香のお尻に押し付けた。
「うっ……やべ、気持ちよすぎだろ」
進ませた指先に、程よく空気を抜いたゴムボールを思わせる、指がどこまでも沈み込んでしまいそうな柔らかい塊にぶつかった。
一度指を引いてもう一度アプローチをかけた、今度は沈む心地と一緒にぷよんっと押し返す弾力が……間違いなく穂乃香の巨尻だった。
指を宛てがったまま手の甲を張り付かせて、電車の揺れに身を任せる。
人の波に揺られる穂乃香の柔尻に指を一本、二本とめり込ませれば、驚くほど簡単に形が変わる。
ゼラチン少なめのゼリーを思わせる頼りなく溶け崩れそうな柔らかい尻たぶ、二枚の布地を挟んでいるにもかかわらずダイレクトに伝わる心地よさに、直久のペニスは早くもズボンの中で張り詰めようとしていた。
「まだ、気づいてないな」
もう一歩踏み込むか、穂乃香の首筋、肩、腕に注視しつつ手をひっくり返し、揺れて押された振りをして五指を巨尻の頂点に食い込ませた。
軽くつついただけで肉がプルプルと指の上で弾んで重たくのしかかる。
まだ動きはない、手をさらに強く押し付けて、指をいっぱいに広げて尻山を裾野から満遍なく包み込む。
「…………? はうっ……!」
ここまでやればさすがに気がついたみたいだった。
肩が跳ねる、後ろを向こうとしているのか頭が左右に揺れるが、中年の背中を左腕で押し、動きを封じた。
そしてもう一度、今度は食い込んだ下着のラインに沿って指をなぞらせた。
尻肉に溝を作るほどに窮屈に食い込んだゴムを引っ張っては戻す、穂乃香の背中がわずかに反り返る。
※※※
最初は押されているだけだと思った。
しかし身体を離しても指は追いかけてくる、円を描く指の動きも意図的なものにしか感じられない。
逃げたかったが、四方から人の山に押されて指一本も動かせない。
「……足踏まれた?」
「は、はい……ちょっと痛かっただけですから」
言ったほうがよかったのか、しかし痴漢されているなんてばれるのはあまりに恥ずかしかった。
魁人は心配してくれるだろうが、痴漢を許しはせず、警察に突き出すだろう。
被害者である自分は警察からいろいろ……想像しただけで鳥肌が立ってしまう。
このくらいなら我慢しよう、こう結論づけてそっと息を吐く、ガラスが白く曇った。
「ひっ……」
お尻を触る手に思考は中断させられる、指は渦を作りながらお尻の外側から中心に向かい、スカート越しに谷間に飲み込まれた。
皮膚の薄い内壁に挟まった指が上に動けば顎が反り返り、下に動けば背中が曲がる。
指はさながら操り糸だった、我が物顔の指に嫌悪感を覚えるが、奥へと潜り込む指の動きが羞恥心を増幅させる。
変に動いて魁人に見つかってしまったら……僅かなスペースにかろうじてねじ込んだ右手を、なにもしないまま引っ込めた。
「あ、あっ……だめ」
声はレールの音にかき消される。
窓の外から流れる風景が建物から川へと変わる。
閉ざされた扉が穂乃香の行く手を阻んだ、ガラスの冷たさが火照る肌から熱を奪う。
「大丈夫? 具合悪そうな顔してるけど……」
魁人の囁き声が揺れに混じって耳元に届けられた、差し伸べられた救いの手を意に反して拒むのは辛かった。
声の上ずりと身じろぎを押さえながら小さく首を振る。
「へいきっ、です……ん、くっ」
※※※
魁人と穂乃香の会話に聞き耳を立てていたが、痴漢されていることを明るみに出すつもりはないようで蠢く指先の凝固も解けた。
スカートを捲って汗で湿った薄布越しの滑らかで柔らかいお尻の上で指を走らせる。
吸い付いて纏わり付くような豊満な肉は、お尻の中心に指が向かうたびに柔らかさと温かさ、潤いが増していく。
「んふっ、ん、はああぁ」
せめぎ合う内壁を押し込んだ人差し指で掻き分ける、窄まり近くの体温は指が蕩けそうなほど熱い。
他の指も尻肉に埋もれ、皮膚を隔てた先に快感を送り込む。
覗きとは比べ物にならないほどの興奮がペニスを痛いほどに勃起させる。
軽く身体を動かしただけでも、布と亀頭が擦れ合い射精へと追い詰めていった。
強く押し付けた指は檻に成り代わり手のひらにお尻を閉じ込める。
開いて閉じてを繰り返しながら次第に圧力を強くすると、肉塊に溺れる指が穂乃香の巨尻をいくつにも分裂させた。
「っく、ふあぅっ……やめ、て」
肩を小刻みに震わせながら、非難めいた目を真後ろの中年に向ける穂乃香。
誤解をいいことに直久は桃色に染まる項に視線を這わせながら尻肉を鷲掴みにする、お尻が上に動いた……踵まで持ち上げているようだった。
踵が降りると地面に叩き付けられた反動でお尻が手の中で大きく波打つ。
柔らかなゴムボールが手を叩き、生まれた小さな衝撃でひしゃげる様が目に浮かぶようだった。
「芦澤さん、どうしたの?」
魁人の見当外れの問いかけが優越感を全身に巡らせる。
当然穂乃香は何も言おうとしない、太ももの付け根辺りから尻肉を掬い上げて重たさと温かい水風船のような柔らかさを堪能しながら、下着を谷間に巻き込ませTバック状にする。
露出した尻山を指先で軽く叩いてぷよぷよとお尻を波立たせた。
「何でも、ない…………ですっ、ううぅっ」
「……それなら、いいんだけど」
初めて触った穂乃香の生尻は不思議な感触だった、滴りを浴びた果実を連想させる汗の潤いを帯びながらも、肌はベビーパウダーをまぶしたようにさらりとしていた。
皮膚の奥に潜む、程よく脂肪を着込んだ尻肉は叩けば重たそうにバウンドし、一方で揉み潰せば肉の重たさからは信じられないほどに指がやすやすと肉の間に潜り込み、指の隙間に大小様々の肉ドームを作る。
「は、ああぁん」
腰を引いた不自然な姿勢になりながらも、中年の背後から下着の中に手を突っ込んだ。
お尻に合っていない小さな下着が潜らせた手を肉付きのいい膨らみに強く押し付けさせ、むちむちとした二つの山が手のひらをほとんど飲み込んでいく。
「パンツ脱がしても、いや……どうせここまでやったんだから」
ズボンのポケットに忍ばせておいた鋏を取り出して左側から下着を切ってしまう。
支えを片方失った布地を右から引き抜いて鋏もろともポケットの中に押し込んだ。
「ひうっ……!」
ひときわ大きな声が穂乃香の小さな口から漏れる。
下着を失ったことで加速した羞恥心が彼女の頬を真っ赤に染めた。
睫毛は涙で濡れて艶を放っている、泣いているのだろうが、目を瞑り歯を食い縛りと声を出す心配は無さそうだった。
巨尻の形を確かめるように探り立てると、頬が引きつり緊張の色が目に見えて浮かんだ。
見ただけではわからなかった穂乃香のお尻の大きさ、手を限界まで広げても片尻すら包み込むことができず、くまなく撫で弄ることで描かれる円は直径10センチほどあった。
その上でこの柔らかさ、指は分厚い尻山に第二関節辺りまではやすやすと飲み込まれる、さらに揉みしだいて指を離すと反動と電車の揺れが合わさって肉がゆさりと上下にバウンドする。
極上の感触に直久の指使いは激しさを増すばかりだった。
※※※
痴漢の指がお尻の割れ目を下り始めた、指が離れ一度は安堵から表情を緩ませるが、肉の唇を指でつつかれるとそこを起点に電流が一気に広がる。
粟立つ肌が不快極まりなかった。
「ひゃうっ……!」
上唇と下唇に力を入れて漏れそうになる吐息を押さえ込んだ。
だが端からこぼれた息がかえって甘ったるく耳にへばりつく、魁人や他の乗客に聞こえていないだろうかと首を動かすが、周囲に動きはない。
魁人も同じで窓の外をぼんやりと見ていた。
「は、ぁっ……く、ふぅ」
指は外側の肉扉から渦を巻くように外から内へ、ゆっくりと穴の中へと近づく。
気持ち悪かった、心の中を無理に暴き立てられるような、見られたくない物を強引に引っぱり出される嫌悪感。
背後に陣取る中年を見上げる、無表情のまま平然としていた。
止めなければ……と右腕を後ろに回すが、痴漢の指が上端にある突起に触れると、増した電圧が手指に鎖を巻きつけた。
「ああ、っ……!」
「……?」
肌の奥を全力で駆け抜ける痺れが背中が海老反りにさせる。
くすぐったくて痛い不思議な感覚に鎖の数は増えていく。
顎が持ち上がったところで魁人と目が合った。
返事などできるはずもなく、無理に顎を下げて俯き加減のままスリットの表面を前後に往復する指に耐え続けた。
「……はう、っ、ああああ」
穂乃香の葛藤には目もくれず、痴漢は指を浅く入り口に潜り込ませる。
大事にしてきたものを土足で踏み荒らされる感覚におびただしい羞恥が芽を吹いた。
薄い茂みを指で掻き分けながら閉じた扉をこじ開ける、内側に隠れて湿り気を溜めていた捩れ肉に指がぶつかる。
とっさに口をふさいだ。
鼻で荒く息を吐きながら、折り重なり段を作った粘膜を一枚ずつなぞり上げ、剥がそうとする指の軌道に、痒疼感が下腹部に広がる。
こんな感覚は生まれて初めてだった。
※※※
穂乃香の様子が妙におかしいと思ったら、後ろから伸びた手がスカートの中に潜り込んでいた。
とっさに大声を出してしまいそうになるが人差し指を噛んで小さな身体を小刻みに痙攣させている彼女を見て、慌てて口をつぐんだ。
下手に騒ぎを起こすわけにはいかない、陰部に指を這わせているであろう中年と穂乃香の間に身体を入れながら手を引き剥がし中指をねじり上げた。
「先輩……」
「次で降りよう」
中年が苦痛に顔を歪める素振りすら見せないのが気になったが穂乃香を助けるのが先だと、目的の駅から3つ前だったが開いた目の前の扉から詰め込まれた人をかいくぐり降車する。
りんごを思わせる赤い頬、切り揃えられた前髪が汗でべったりと張り付いている額、車内の蒸し暑さだけではこうはならない、やはり痴漢されていたのだろう。
「まったく……何考えてるんだか。もう平気だから」
「あ、あのっ、先輩……私……ぐすっ」
「ごめん、もうちょっと早く気づいてあげられたら……」
穂乃香は多分サインを送っていたのだろう、察することができない自分が情けなかった。
人のいない駅のホームに彼女が肩を震わせてすすり泣く声だけが聞こえていた、かける言葉も見つからず立ち尽くすのみだった。
「先輩、う、ううっ……私……」
「芦澤さん……」
「いいんです、っく、んんっ」
少し離れたところにベンチを見つけ座るよう促したところで、柔らかい何かが身体にぶつかる。
背中に手が回ると圧迫された二つの膨らみが平べったく押しつぶされた。
それが抱きついてきた穂乃香の大きな胸だと気がついたのはほんの数秒あと、総身に異常なプレッシャーを感じる。
温かく蕩けそうなソフトボール大の肉塊に、何か話しかけるどころか、思考能力さえ奪われてしまった。
「…………っ!」
「ごめんなさい、先輩…………その……」
「……いいよ」
ひどく上ずった返事しかできない自分が恥ずかしい。
穂乃香は助けを求めている、にもかかわらず先輩としても、男としても何もしてやれない、そのくせ押しつぶされた双乳と汗とリンスの混じった甘い匂いに興奮していた。
自己嫌悪の中、魁人はただ小さな背中に手を回し、彼女を抱き寄せるだけだった。
胸板に顔を埋めしゃくり上げ続ける穂乃香だったが、だんだんと落ち着いてきたようで肩の動きは小さくなった。
やがて顔を上げると、目を紅に染め、頬を濡らしたまま魁人を見上げる。
儚げで弱々しい目元のライン、涙を溜め込んだ瞳が艶やかに宝石じみた光を放つ。
守ってやりたいと思った、それ以上に彼女を支配して自分の物にしたい、牡としての感情が澱みと変わり内心で膨れ上がる。
「ありがとう、ございます」
作り物を思わせる頬の赤み、さすがに恥ずかしくなったか穂乃香が背中から脇腹に手を置いて伸ばし、魁人から身体を離す。
消えゆく体温が名残惜しさとなって心に刻まれた。
「落ち着いた?」
現実に引き戻されると自分がどれだけ大胆なことをしていたか嫌というほど思い知らされ、消え入りそうな声でお礼を言ってすぐに、弾かれるように魁人から後ずさった。
回した腕と押し付けた上半身には魁人の筋肉質な身体の触り心地が今でも残っている。
触られていた時以上に顔が火照っていた、しかし鳥肌も立っていないし気持ち悪くもない。
ふわりと宙に浮かんでいるような不思議な感覚だった。
「……はい」
コンクリートの硬さが足裏に押しかかり始めた。
もう少しだけそばにいてもいいだろうか、痴漢はもういないはずなのだがどこかで様子をうかがっているかも、一人になった瞬間に襲われるかも、と悪い想像が加速する。
今頼れるのは魁人だけだった……気がつくと彼の腕を取っていた。
「警察とかには…………行かないほうがいいみたいだね」
「すみません、やっぱり、恥ずかしいですから……」
前に友達が痴漢に遭って警察に被害届を出した時の話を聞いた覚えがあった。
どこを触られたのか、触られてどう思ったのか、自分に落ち度はなかったのか……警察官がいやらしい目で見ながら真実発見を建前にしてあれこれ聞いてくる、同じことをされたらと思うと、とても耐えられない。
魁人は目をそらし、わずかにうつむいたまま口に手を当てていたが、もう一度穂乃香と視線を合わせると小さく頷いた。
あとは、今日されたことを忘れるだけなのだが……ふとした時に蛞蝓のように蠢く指先を思い出してしまう。
触れていたであろう中年男性の顔も頭から離れない。
「買い物行くんだったら、僕もついていったほうがいいな……次の電車も結構混んでると思うから……」
やかましいレール音のせいで最後まで聞こえなかった、ただ、魁人の優しさが嬉しく、乾いたはずの涙が再び頬を濡らした。
夕日も沈み、辺りは黒で塗りつぶされた。
※※※
星の疎らな夜空の下で直久は戦利品である穂乃香の下着を広げた。
以前二回は白の下着だったが、今日はピンクと白のチェックだった。
痴漢していたときは汗の湿り気が含まれていたが今はすっかり乾いている。
もっとも、顔を近づけるとふわりと甘ったるいミルクに蜂蜜を混ぜたような香りが鼻をくすぐったが。
「よう、久しぶりだな」
「すみません、青村さん……わざわざ呼び出してしまって」
穂乃香との関係を一歩前進させるため、先輩である青村の力を借りることにした。
ある物を手にするために……
「ついにお前もデビューか、しっかし悪い奴だよなぁ」
「……正々堂々やって玉砕なんて、柄じゃありませんから」
「ま、どっちでもいいけどよ……しばらく待ってくれ、どっちも今手元にないからさ」
「わかりました、どのくらいかかりますか?」
「店で買えるものじゃないんだ、一ヶ月くらいは待ってもらうぞ」
「…………」
「そうだ、お前の狙ってる子の写真とかってあるか?」
携帯に保存された画像を開く、友人と笑顔で話している穂乃香が写っていた。
隠し撮りだったので若干ピントが合っていなかったが、大きな胸の形がブラウス越しに丸く浮かんでおり、これを見るたびに直久は股間を熱くしていた。
「おっ、チビのくせに胸でけーな。でもちょっと地味じゃないか?」
「コンタクトにして、髪とか染めれば結構いい感じだと思いますけど」
「あー、そうかもな……落としたら俺達にも回せよ」
闇へと消える青村の背中、危うく舌打ちしてしまいそうだった。
だがこれで穂乃香は手中に落ちたも同然、これからのことを考えるだけで頬が持ち上がり、唇の端が歪んでしまう。
「あとは、あのバカを何とかするだけだな……」