連載小説「通販カタログ」(15) (Pixiv Fanbox)
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「え、え……?」
「ほらね、ママ。あたしたちの言ったとおりでしょ?」
もう一人――サックス系の丸襟ポロワンピースと、グレーのスパッツを着たポニーテールの女の子も言う。
なに? これはどういうこと?
ぼくが説明を求めるように母さんを見ると、母さんは笑顔で肯いて、
「ふたりとも、この前あなたが美容室に行ったときにすれ違ったらしいのよ。で、『裕一お兄ちゃんが女の子の格好をしてるってお母さんたちに言っても信じてもらえない』って、確かめに来たってわけ」
「あ……!」
言われてみれば、ちょっと見覚えがある。美容院に行くときに道路の反対側で歩いていた、あの子たちだ。ちょっとすれ違っただけなのに、ぼくだってバレていたらしい。
恥ずかしかったけど、こうなっては誤魔化しようもない。ぼくは改めて、二人の女の子たちに挨拶する。
「は、はじめまして。瀬川裕一です。えっと、ほんとは、中学三年生の、男子なんだけど、お、女の子の服が好きで、先週から、こういう服を着て生活してます……。その、紛らわしい格好で、ごめんなさい……」
「そうなんだ~……うん、とっても可愛いよ、裕一お兄ちゃん」
「うんうん! あたしたちより女の子みたい!」
「うっ……」
リアル女子小学生二人の言葉が、いっそう恥ずかしい。どちらも、少なくともぼくよりはずっと「お姉ちゃん」な服を着ているのだ。
ちなみに女の子たちのお母さんたちは、驚いたような、ちょっと呆れたような苦笑いを浮かべていて、変態扱いされないのはよかったけど、これもこれで恥ずかしい。
ぼくが立ち尽くしたまま視線をそらしていると、
「ね! せっかくだから、日奈たちとお友達になろ~!」
ショートカットのサロペット少女――日奈ちゃんが、そんなことを言い出した。
「えっ……!? う、うん。ありがとう! ええと……」
「日奈だよ! あたし、斎藤日奈! こっちが井上月乃ちゃん!」
「月乃よ。よろしくね、裕一お兄ちゃん。それとも――」
戸惑うぼくに、ポニーテールのポロシャツ少女――月乃ちゃんはちょっと意地悪そうに笑って、
「裕ちゃんとか、裕子ちゃんって呼んだ方が良いのかな?」
「うっ……い、いやその、ええと……じゃあ、裕ちゃんで……よろしくね、日奈ちゃん、月乃ちゃん」
あまりの恥ずかしさに、ぼくはそう答えるのが精いっぱいだった。さすがにこの格好で「裕一お兄ちゃん」はおかしいし、かといって女の子の名前を与えられるのも抵抗がある。母さんからも呼ばれている「裕ちゃん」が、ぎりぎりのラインだった。
そんなぼくの葛藤を知ってか知らずか、日奈ちゃんは無邪気に笑って、
「決まりね! じゃあさっそく、公園に遊びに行こ!」
「え、えっ……? こ、公園に……?」
「うん。最近ね、ママから教えてもらったゴム飛びが流行ってるんだよ。裕ちゃんにも、教えてあげるね!」
というわけで――
ぼくは女の子ふたりに手を引かれるように、近所の公園に連れ出された。スニーカーも、母さんがこの服と一緒に、女の子用のピンクのスニーカーを買っておいてくれた。「こんなこともあろうかと」って言ってたけど、息子が女の子の服で外に出る事態を想定してたんだろうか? 本当は近いうち、自分が連れ出すつもりだったんじゃ?
ともあれ、ぼくはそれを履いて公園に行き、女の子ふたりとゴム飛びしたり、ブランコや鉄棒で遊んだりした。ゴム飛びでジャンプするときやブランコを漕ぐとき、何より鉄棒で回るときにスカートが翻って、中のパンツが見えてるんじゃないかと気が気じゃなかったけど、なにより恥ずかしかったのは――その様子を、公園で立ち話していたり、散歩していたりするご近所さんに見られたことだった。
「あら、もしかして裕一くん? まぁまぁ、今どき珍しい、可愛い女児服じゃない」
「へー、裕一くんってそういう趣味があったんだー。今度お姉さんのおさがり、プレゼントしてあげるね!」
「うちの子が、裕一くんが学校で女装させられてたって言ってたけど、それで目覚めたのかしら? ふふっ、学校にもセーラー服で通うのかしら?」
次から次へとご近所さんに声をかけられ、女の子扱いされたり、質問攻めにされたりした。しかも、すぐ近くに日奈ちゃんと月乃ちゃん――学校で女装させられる前からの目撃者がいるので嘘をつくわけにもいかず、
「その、学校で女装させられる前から……女の子の格好をしてました……」
そう告白させられる羽目になり、恥ずかしいことこの上なかった。
結局5時のチャイムが鳴るまで、ぼくは女の子たちと遊んだ。女の子の服で遊んだり、その姿を見られたりするのは恥ずかしかったけど、でも間違いなく楽しくて、ドキドキして――夜もその時のことを思い起こして、一段と激しいオナニーをしてしまったのだった。
(続く)