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連載小説「通販カタログ」(14) (Pixiv Fanbox)

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  (14)  月曜に学校で女子にセーラー服を着せられ、さらに二宮桃花さんに女子制服一式をもらってから、3日が経った木曜日――ぼくはまだ、男子制服のまま通っていた。  いや、男子のぼくが男子制服で通うのは当たり前の話で、何の後ろめたさも感じる必要はないんだけど、それでもここ数日、ずっと悶々としていたのは事実だった。  本当は、女子制服で通って見たい。  何ならずっと、女子制服で通学したい。  女子制服も譲ってもらったんだし、着ていくのが礼儀なんじゃないか。  でもやっぱりその決心はつかず、さらに日にちが経つごとに女装通学へのハードルは上がっていく。何も考えずに翌日から通っていたほうが、まだましだったかもしれない。  いっそのこと何かの罰ゲームとか口実を作って、一ノ瀬さんたちに女装で来るよう命令されたほうが――いやでも、そこまで他人任せにするのも男らしくないし――いや、自分から女装しないのが男らしくないっておかしくないか――  そんな思いに頭を悩ませながら家に帰りつくと、 「ただいまー……」 「おかえり、裕一。どうしたの? 浮かない顔して」 「えっ? その……ううん、なんでもない」 「ふぅん……そうだ、新しい服買ったから、部屋に置いておいたわよ。あとでちょっと、着て見せてちょうだい」 「えっ、新しい服? なに?」 「それは見てのお楽しみよ。さ、二階に上がって」 「うん」  「新しい服」で喜ぶのもどうかと思うけど、ぼくは一時悩みを忘れウキウキした気分で二階に上がり、自分の部屋に入る。そのベッドの上にあったのは―― 「う、うわぁ……」  それはいかにも「女児服」という感じの、ブラウスとジャンパースカート、赤い紐リボン。そしてそれに合わせたソックスだった。  ブラウスは大きな丸襟で、その負塵にはフリルがつき、小さな薔薇の刺繍があしらわれている。袖口はキュッとすぼまって、こちらもフリルがあしらわれているのが、いつもの丸襟ブラウスよりいっそう女の子っぽい。  ジャンパースカートは淡いピンク色で、胸元から大きく広がるAライン。裾に白いフリルがついている以外は特に飾りもない、シンプルなデザインだけど、それだけにいかにも女児服といった感じだ。  そしてソックスは、純白で、穿き口にレースのフリルがついたもの。  今どき女子小学生だって着ないような、あからさまな「女児服」――けれど男子中学生のぼくがそれを見て真っ先に抱いた感想は、 (着たい――) (この可愛い女児服に袖を通して、女の子になりきってみたい――)  恥ずかしさはある。でも、それを上回る興味と喜びに、ぼくはあわただしく男子制服を脱ぎ、肌着を脱ぎ、女児用の下着を穿いてから、その服に袖を通し―― 「う、うわぁ……」  ふりふりのブラウスと、その襟もとに結ばれたリボン。胸元のすぐ下から大きく広がったジャンパースカートの裾は短く、太ももの半分以上が丸出しになっている。足首にはソックスのレースが広がって、さりげなくあしらわれたリボンもいいアクセントだ。どれもこれも、いかにも女の子らしい記号満載で、男子中学生の自分が身につけている恥ずかしさと興奮に、胸が痛いほど高鳴る。  どうやら母さんは、ぼくの好みを分かりすぎるほどに分かっているらしい。逆に恥ずかしいんだけど、買ってもらったんだから、ちゃんとお礼は言わないと――そんなことを考えながら、下に降りる支度をしてたときだった。  ピンポーン――  来客を知らせる、チャイムの音。誰だろうと思いつつ二階で待っていると、鍵を開けて誰かが上がりこむ様子。音がしなくなったところで、こっそり階段の踊り場から玄関をうかがうと、ちょうどこちらを見上げていた母さんと目が合った。 「ああ、裕一、ちょうどよかった。降りてらっしゃい?」 「な、なに? っていうか、着替えたほうが――」 「そのままで大丈夫よ。いいから、いらっしゃい」  ということは、ぼくが女装していることを知っている人だろうか。知っている人相手でも、この新しい女児服は恥ずかしすぎるけど、誰かに見てもらいたい気持ちもちょっとあって、ぼくは誘惑に負けてそのまま降りていき、リビングのドアを開けて―― 「えっ……?」  そこにいた二組の親子――小学生くらいの女の子たちと、30代くらいの母親たちの姿に絶句する。全員、ぼくの女装を知っているどころか、顔を見た覚えもない相手だった。  そんな相手の前で、よりにもよって小学生でも着ないようなピンクのジャンスカ女児服で出てしまい、ぼくが恥ずかしさのあまりに硬直していると、 「ほら、やっぱり!」  女子小学生の一人――赤と白のボーダー柄シャツに、デニムのサロペットパンツを着たショートカットの子が、ぼくを指さして、こう叫んだ。 「女の子の格好してたの、裕一お兄ちゃんだった!」   (続く)

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