連載小説「通販カタログ」(11) (Pixiv Fanbox)
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放課後、一ノ瀬さんに制服を返してもらって、ぼくは無事に帰宅した。さすがに女子制服のまま下校するのはハードルが高い。女子の体温が残った自分の制服を着るのは別の意味でドキドキしたけど、それはともかく。
ぼくが女装していたことを、女子と大半の男子からは比較的に好意的に受け入れてもらえたけど、一部の男子からの目はやや冷ややかだった。女装そのものを馬鹿にしていたり、女子にちやほやされているのをやっかんでいたり――そんな感じだと思う。まぁ、さすがにいじめられたりはないと思うけど。
しかし今日はまだ、終わりではなく――
「へー、男子の部屋にしちゃ、けっこう綺麗にしてるじゃん」
「ほんとね。ふふっ、裕一くんらしいけど」
「は、恥ずかしいからあんまり見ないで欲しいなぁ……」
帰宅から1時間後。ぼくの部屋には二人の女子――一ノ瀬さんと、二宮さんがいた。放課後の着替え交換の時、「このあと、裕一くんの家に遊びに行っていい?」と聞かれて、オーケーを出したのだ。もちろん女子制服やランドセルの類は、二人が来る前にまとめてクローゼットに隠してある。
ふたりともセーラー服姿で、ぼくも詰襟を脱いだ男子制服のまま。しばらく三人で低い丸テーブルを囲み、母さんが用意してくれたアイスティーを飲みながら、今日の「制服交換」について話していたけど――
「そうそう、今日はちょっとした『手土産』を持ってきたんだ。ほら、これ」
「え……な、なに?」
テーブルの前に置かれたのは、二人がそれぞれ持っていた紙袋。いや、何となく中身の予想はつくけれど、それでも恐る恐る、まずは一ノ瀬さんの方から開けてみる。
「こ、これは……!」
入っていたのは予期したとおりの――いや、それを上回るものだった。
パステルイエローのポロシャツに、水色のサロペットスカート。シャツの襟や袖口、サロペットスカートの肩紐やポケットカバーの縁にはピンクのラインがあしらわれ、襟元のボタンもカラフルだ。
「これって、女児服……!?」
「そうそう、なんか音楽用語みたいなブランドの、シャツとサロペット。ママがむかし買ってきたんだけど、あたし、あんまり好みじゃなくてさ。せっかくだし、裕一に着てもらおうと思って」
一瞬、ぼくの頭の中に最悪の予想が浮かぶ。
もしかしてこの二人には、ぼくがひそかに女児女装していることがバレているんじゃないだろうか? だからからかい半分にせよ、ぼくが喜ぶと思って、こんな『手土産』を持ってきてくれたんじゃ? いやだけど、もし単に面白がって用意しただけの場合、完全に藪蛇になってしまう。
「だ、だからってぼくに着せなくても……その、二宮さんにあげたほうがよほど……」
「私にはちょっと、サイズが大きいのよ。好みにも合わないしね」
「それ言ったら、ぼくだって――」
言いかけたけど、考えてみれば女子小学生の制服を着ることを考えてオナニーしていたんだし、今では実際に着てもいる。あまり説得力がない。
「ほら、ほら。裕一なら似合うと思うから、ちょっと着て見せてくれよ」
「もう、強引なんだから……」
なんだかんだで、けっきょく着ることになってしまった。
二人には廊下に出ていてもらって、急いで着替え始める。改めて中身を取り出したぼくは、ポロシャツとサロペットスカートの下に、さらに別のものが入ってることに気付いて、
「こ、これも、穿くの……? なに考えてるんだよ、一ノ瀬さんは……」
情けない声を出しながら、ぼくは服を脱いで、紙袋の中身にすべて着替え――
「ど、どうぞ~……」
廊下に向かって声をかけると、待ちかねていたようにドアが開いた。入ってきた二人は、ぼくを見るなり目を丸くして、
「おおー、似合ってるじゃん! サイズもぴったりだし!」
「ええ。本当に、小学生の女の子みたい」
「う……」
ぼくは赤くなって、二人から顔を逸らす。可愛いと言われると、背筋がむずむずする。しかもそれは恥ずかしいってだけじゃなくて、どこか嬉しい気持ちがあることも認めざるを得ず――
「うぅ……」
「ふふっ、もじもじしてるところも可愛いわよ、裕一くん。ほら、もっと笑って」
「あー、これなら赤いランドセルも持ってくりゃよかったなー。きっとよく似合っただろうに。裕一、持ってないか?」
「さすがに持ってるわけないでしょ。男子の部屋なんだから」
「アハハッ、そういえばそうだったな、裕一が男子だってこと、忘れてたよ」
盛り上がる二人に、ぼくは内心冷や汗を流す。閉じたクローゼットの中には、「男子の部屋」にあるはずのない赤いランドセルが眠っているのだ。
そんなぼくの動揺に、幸い二人とも気づかなかった様子で、
「それじゃ、せっかくだしちょっとポーズとって見てよ。その服にぴったりな、可愛いポーズをさ」
(続く)