連載小説「通販カタログ」(5) (Pixiv Fanbox)
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(5)
「うっ……!」
射精のときは、ほどなく訪れた。
準備なんて必要なかった。いま着ているこの服が、最高のオカズなのだ。その着心地は、すでに30分以上にわたってぼくの性欲を刺激し続けている。握って軽く扱き上げただけで肉棒は激しく痙攣し、我慢などたちまちのうちに消し飛んで、かねて用意のティッシュをかぶせた瞬間に、ぼくはその中に精を放っていた。
どくん、どくん――
脈動はポンプのように腰の奥から白濁液をくみ上げ、余さずティッシュの中に吐き出してゆく。軽い薄紙は粘液塊を含んでたちまちのうちに重くなり、幾重にも重なった上からさえ湿り気が伝わってくるほどだった。
「はぁーっ、はぁーっ……」
かつてないほど激しい射精を終えて、ぼくはチェアに座り込んだまま、ぐったり脱力した。精液は残らず搾り出され、魂はふわふわと宙に浮いて、文字通り、精魂を抜かれてしまった気分だ。
けれどそんな幸福な時間は長く続かず――
「はぁ……」
ぼくは起き上がると、重く濡れたティッシュをフタ付きのゴミ箱に入れる。さらに数枚のティッシュを取ると、すでに萎えかかったペニスの内側、尿道に残ったままの精液も搾り出して拭き取り、同じように捨てた。
しかし、本当につらいのはここからだ。
「や、やっぱり、この格好でいるのは恥ずかしすぎる……き、着替えたい……」
出すものを出して冷静になった頭で見下ろせば、女児制服を着た自分の体。それもスカートをめくりあげ、ショーツを半脱ぎにした状態だ。今すぐ脱いで、いつもの部屋着に着替えてしまいたい気分だけど、
「でも……買ってもらったんだし、ちゃんと、着ないと……」
すっかりちいさくなったおちんちんを女児用ショーツの中にしまい込み、スカートを元通りに下した。再びのスカートの穿き心地――しかし頭が冷えている分、恥ずかしさはいっそう身に染みる。
けれどこれからは、少なくとも家の中で家族しかいないときは、ずっとこの女子制服を着て過ごさなくてはいけない。今まで通りに。いつも通りに。
「まずは――手を、洗ってこないとね」
ぼくは自分を奮い立たせるようにそう呟くと、洗面所に向かうのだった。
*
「なんだ裕一、その格好は。女の子みたいじゃないか。はっはっはっ、うちの子はてっきり息子だと思っていたけど、実は可愛い娘だったんだな」
夕方、帰ってきた父さんはぼくの格好を見ると、そう言って大笑いした。怒られるかもしれないと思っていた――あるいは、怒ってやめろと言われるかと期待していたぼくにとっては、じゃっかん拍子抜けだ。
それどころか、
「裕一、座るときはちゃんと足を閉じて座りなさい。みっともないぞ」
などとノリノリで、母さんと一緒に「赤いランドセルも買ってやらないとなぁ」「いまから女の子として小学校に入学させるにはどうすればいいかしら」などと話している始末だった。逆に恥ずかしい。
「父さん、本当は女の子が欲しかったのかな……?」
そんなことを考えながらお風呂に入り、湯上りのぼくに用意されていたのは――ピンクのリボンとラインが入った女児下着に、エンジ色の体操着とブルマー。どうやらこれをパジャマにしろ、ということらしい。
「う……体操着のジャージを部屋着にするのはよくあるけど、ブルマーを部屋着にするなんて、聞いたことないよ……しかもぼく、男なのに……」
情けなさに思わずぼやくけど、それもこれも自業自得だ。諦めてキャミソールとショーツを着用し、体操着を着て、ブルマーを穿く――サイズはぴったりなものの、おちんちんを抑え込み、お尻を包むフィット感は、あまりにも独特だ。しかも穿き口が締め付けている太ももの付け根から下は丸出しで、まるでパンツ一枚でいるような――いや、それよりさらに恥ずかしいことになっている。
「うぅ、父さんと母さんに見つかりように……」
ぼくはそう祈りつつ、ブルマー姿で脱衣所から廊下に出た――が、
「あら、可愛いじゃない。こっちに来て、もっとよく見せてちょうだい」
母さんの声に、ぎくりと振り返る。リビングのドアが開いていて、パジャマ姿の父さんと母さんがソファに座って、並んでお酒を飲んでいるところだった。
「うっ……はーい……」
それからしばらく、テレビの前に立たされたぼくは、ひとしきり父さんと母さんにブルマー姿を見られ、最終的には母さんが使っているヨガマットの上で、ラジオ体操をさせられることになった。二人ともちょっと目が嫌らしくて、むかしの子はこんな格好で体育の授業を受けていたのかと思うと同情してしまう。いや、息子のブルマー姿をいやらしい目で見る親ってどうなんだ。
やっと解放してもらえた時は、ぼくはすっかりくたびれきって、ぐったりとベッドに寝転がった。もう、夜更かしして遊んだり、明日の予習をする気にもなれない。今夜は早く寝てしまおう。
「友達や学校のみんなには、女装のことがばれませんように……」
ぼくはそう祈りながら、眠りについたのだった。
(続く)