「思い出のワンピース」(23) (Pixiv Fanbox)
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「思い出のワンピース」
6.シンデレラボーイ(2)
レッスン室でレオタードに着替え終わったところに、トレーナーの女性が入ってきた。30代前半、元バレエダンサーらしく細身の女性だ。
「本日はご参加、ありがとうございます。トレーナーの西森です。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす」
博希とランも、声をそろえて挨拶を返す。間延びした言い方がいかにも子供っぽくて、博希は背筋がむずがゆくなる。
ちなみに保護者枠の愛那と斎藤夫人は、レッスン室の隅に並んで座り、「娘」の様子を眺めていた。
トレーナーはくすくす笑って、
「ふふっ、緊張しないで、楽しんでいってちょうだい。先生も、こんなに可愛い子たちを教えられて嬉しいわ。じゃ、最初に自己紹介をしてくれるかしら?」
「はい!」
元気よく手を上げて返事をしたのは、ランの方が先だった。上がキャミソールのようになったラベンダー色のレオタードのスカートを揺らし、
「斎藤ラン、5さいです! がくねんは、えっと、ねんちょー組です! よろしくおねがいします!」
「ふふっ、ランちゃんね。とっても元気でいいわよ。よろしくね」
西森トレーナーはランの頭を撫でてから、もう一人の参加者に視線を移す。
「う……ゆ、雪田、博希、18歳、です……が、学年は、高校、3年生、です……よろしく、お願いします……」
「あらあら、こっちの子はずいぶん恥ずかしがり屋さんね。でも、とっても可愛いわよ、そのレオタード」
「あ、ありがとう、ございます……」
褒められて、博希はますます顔を赤らめた。
彼が着ていたのは、水色を基調としたレオタードだった。胸元のヨーク襟とパフスリーブ、フリルのついたスカートの部分だけが白になっているのが、シンデレラのドレスを思わせるデザインだ。タイツはもちろん白で、水色のバレエシューズを履いていた。
(うう、ランちゃんよりよっぽど女の子みたいだよ……これじゃまるで、可愛いレオタードが着たくてバレエ体験レッスンに参加してるみたいじゃないか……)
事実が当たらずといえども遠からずなだけに、いっそう恥ずかしい。
数日前に決まったバレエレッスン参加だが、どんなレオタードが用意されたのかは「当日のお楽しみ」と言われて見せられていなかった。いったいどんなレオタードを着せられるのかと、ドキドキしながら過ごすことになったのを考えれば、母親の判断は正しかったのだろう。
そしていざ着替えの段になって、水色のシンデレラ風ワンピースを見せられて――
「ぼ、ぼく、これを着て、バレエを……!?」
予想以上に恥ずかしいデザインに戸惑う博希だったが、それでも着ないわけにはいかない。
ジャンパースカートとブラウスを脱いで下着姿になり、白いタイツを履いて、その上からレオタードを着る。肌にぴったりと密着する着心地と、つるつるとした肌触り、なにより可愛らしすぎるデザインに、股間の疼きは早くもクライマックス。勃起していないだけ上出来である。
「うう、可愛すぎて恥ずかしいよ、これ……」
「くすっ、でも、可愛いレオタードのほうが嬉しいんでしょ?」
「う、うん……」
「それに――恥ずかしいほうが、好きなんでしょ?」
「……うん」
耳元で意地悪く囁く愛那に、博希は小さくうなずく。
さらにそこへ、
「わぁっ、お兄ちゃんのれおたーど、かわいいー!」
「ふふ、うちのランのより、ずっと可愛いわね」
シンプルなレオタードに着替えたランと、その母親にも笑われて、ますますいたたまれなくなったのだった。
(続く)