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「思い出のワンピース」(22) (Pixiv Fanbox)

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「思い出のワンピース」   6.シンデレラボーイ(1)  目指すバレエ教室は、雪田宅から歩いて5分ほどの川沿いにあった。 「ううっ、まさかぼくが、バレエの体験レッスンに参加することになるなんて……」 「いいじゃん。男子高校生には滅多にできないわよ、こんな経験」  隣の藍那が、尻込みする博希を励ますように――あるいはからかうように笑って言う。 「女の子の、それもトドラークラスで参加するなんて、ね」  話は、数日前にさかのぼる。  愛那とともに勉強していた博希を、ご近所さんの主婦――斎藤夫人が訪ねてきた。以前、レトロワンピースを見られた時にいたうちのひとりだ。  彼女は一人娘をバレエ教室に通わせたい――少なくとも興味が湧くかどうか試してみたいとのことで、近所のバレエ教室で体験レッスンに行かせようと考えているらしい。できればそのまま続けてほしいため、レッスンを楽しんでもらいたい。しかし彼女一人での体験レッスンでは不安がある。なので博希に付き添ってもらって、一緒にバレエの楽しさを分かち合ってほしい――とのことだった。  とうぜん博希は首を左右に振った。 「む、無茶ですよ、そんなの!」  同じ年ごろの少女ならいざ知らず、博希は男子高校生である。そのバレエ教室は女の子専門で、しかもその娘――ランが受けるのは幼稚園児向けのトドラーコース。つまり博希は、女の子としてバレエ教室の体験レッスンに参加しなくてはいけないのだ。  しかし―― 「大丈夫よ。バレエ教室にも許可は取ってあるから。男子高校生も一緒に、同じコースの女の子として参加させていいですかって。ちょっと驚いてたけど、喜んで承諾してくれたわ」 「しょ、承諾って――だいたい、ぼく、道具とか持ってないし……」 「ふふっ、安心して。女の子用のレオタードとバレエ用品は、ちゃんと用意してあるわ」 「お、女の子用の……?」  母親の言葉に、博希の心が、思わず揺らぐ。  女児服女装を始めてからほぼ1ヶ月。すでに普段着のほとんどは女児服――それも丈の短いスカートやワンピースに置き換わり、ここ半月はフルタイムで女装しているような状態である。愛那と母親の勧めで、家の中ではノーパン状態で過ごしていることも珍しくない。  そんな彼にとって新しい女児服を着るチャンス、しかも人前で恥ずかしい思いができるとなると、思わず食指が動いてしまうのだ。  けっきょく主婦からの強い要望もあって断り切れず、博希は8月第4日曜のこの日、バレエ教室へと赴いていたのだった。 「レッスン中に勃起しちゃったら、どうしよう……」 「大丈夫よ。あたしやお母様以外の人に見られて緊張してるときは、逆におっきくならないんでしょ? 学校の時や、プールの時みたいに。いまだって平気なんだし」 「そうだけど……」  緊張していると勃起せずに済むのは、何度かの女装外出で気づいたことだった。  今日も「お稽古」に行くとあって、博希はフリルのついたパフスリーブブラウスと、水色のジャンパースカートを着ている。丈は短く太ももの半ばほどが露出し、これが部屋の中であればたちどころにスカートの前にテントを張っているところであったが、いまはおとなしくガールズショーツの中に納まっていた。 「あっ、見えてきたわよ」  愛那の声に顔を上げると、遠くに個人宅としては大きい建物と、その前に立つ斎藤母娘が見えた。娘のランは、上品な襟付きワンピースを着ていた。 「クスッ、ランちゃんより、ヒロのほうが可愛いお洋服を着てるわね。ヒロのほうが年下だって思われちゃったりして」  揶揄う幼馴染の耳打ちに、博希は顔を真っ赤にした。   (続く)

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