「思い出のワンピース」(19) (Pixiv Fanbox)
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「思い出のワンピース」
5.ぼくが水着に着替えたら(2)
目を輝かせる幼馴染の姿に、愛那も嬉しそうに笑って、
「くすっ、可愛い水着を着ただけで、ここまで反応が違うなんてね」
「う……やっぱり、水着のせい、なのかな……」
「それしか考えられないもん。ほら、みんなヒロのこと、じっと見てるよ」
「えっ……!?」
言われて周りを見回した博希は、周囲の客――特に男性がじっとこちらを見ていることに気付いて赤くなる。
もっとも、半分は誤解である。8割近くの男性が見ているのは、抜群のプロポーションに真っ赤な水着を着た愛那で、「ちっ妹が一緒かよ」と言わんばかりの顔をしている男も多い。
だが一方で、残り2割の男性――そして女性は、博希に熱い視線を向けていた。
(あの子、ずいぶん大きいのに可愛い水着ね)
(お姉ちゃんのほうはスタイルいいのに、妹さんはぺったんこでかわいそう)
(でもあれはあれで可愛くない? っていうか、ちょっと男の子っぽくも――)
(まっさかぁ!)
そんな遠巻きのざわめきは、もちろん直にふたりの耳に届くはずもない、
周囲の視線は露出している太ももやおなか、胸元に絡みつく。男子である博希にはついぞ無縁だった感覚に、
「あ、愛那! 早く、別のところに行こう!」
「うん」
愛那はうなずいてから、彼の耳にささやく。
「そうそうヒロちゃん。姉妹のふりするなら、あたしのことは『お姉ちゃん』って呼んだ方がいいんじゃない?」
「う……うん。わかった、愛那……お姉ちゃん」
呼んだ瞬間、また別種の戦慄が彼の背筋を震わせる。同い年の幼馴染を「お姉ちゃん」と呼び、彼女からも「ヒロちゃん」と呼ばれて妹として扱われるのは、恥ずかしくはあったが決して悪い気分ではなかった。
歩き出した二人が向かったのは、アクアスライダーの行列だった。視線そのものは少なくなったが、それでも博希にとっては落ち着かない。
「やっぱりもうちょっと、地味な水着の方がよかったかな……」
「なに言ってるの、ヒロちゃん。とっても可愛いわよ。それに――選んだのは、ヒロちゃんでしょ?」
「う……そ、そうだけど……」
「ほかにも大人しい色のや、ワンピースや、パレオだってもっと隠れるのがあったのに――ちょっぴりエッチな水着を選んだのは、ヒロちゃんじゃない」
「うう……お姉ちゃんのいじわるぅ……」
ちょっぴり恨みがましい目を向けると、愛那はなぜかうっとりとした表情になる。
しかし愛那の言う通りであった。一昨日、駅ビルの水着売り場に行ったときに、あえてふりふりビキニ、それもパレオが前開きになったものを選んだのは、博希自身であった。
半分は勢いだったとはいえ、改めてこうして着ていると、何でこんな水着を選んでしまったのかと一昨日の自分を説教したくなる。
けれど――
「それが、気持ちいいんでしょ?」
「う……うん……」
ささやきに反論できずうなずく博希であった。
そこへ、
「次の方、どうぞ~」
従業員の案内で、ちょうど博希たちの番が巡ってきた。
「おっと、それじゃお先に」
前に立っていた愛那が先にスロープに腰掛け、胸元を押さえつつ悲鳴とともに滑り降りてゆく。
滑り切った藍那がスロープの前からどいたところで、いよいよ博希の番だ。
「お嬢ちゃん、行ってらっしゃい。胸元に手を当てて、水着を押さえてね」
「は、はい!」
少女扱いに赤くなりつつも、ブラを両手で押さえ、スライダーを下りて行った。
勢いよく滑り降りると、水が両足の間から股間に駆け上がり、パレオの中のふくらみに当たる。それはまるで、股間にシャワーを当て続けているときのような効果をもたらした。今まで大人しくしていたものが、むくむくと立ち上がりそうになり、
(ま、まずい、これっ……!)
焦った博希は、思わず胸元から手を放してしまう。
とたんに、背中の紐が一気に上にズレて、胸元が露わになってしまう。男なのだから見られても大丈夫――そのはずなのに、博希は少女のように胸元を押さえ、ますます甲高い悲鳴を上げていた。
スロープはぐるぐると大きく円を描き、最後の急降下は、通路近くのプールに直接注いでいる。ブラの取れた胸元と膨らみかけた股間、両方を押さえながら滑り降りる姿をたくさんの人に見上げられて、博希はほとんどパニックになりながらも、プールに勢いよく飛び込んでいた。
「ヒロちゃん、ブラが取れてる!」
まだプールの中にいた愛那は、すぐに近づいてきて、彼をスロープの前から移動させると、ブラを直してくれる。
「あ、ありがとう、愛那――お姉ちゃん……」
博希は愛奈にお礼を言いながら、本当に彼女の妹になってしまったかのような気分を味わうのだった。
(続く)