「思い出のワンピース」(18) (Pixiv Fanbox)
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「思い出のワンピース」
5.ぼくが水着に着替えたら
夏休みも後半に突入した日曜日。
制服姿にプールバッグを持った岡崎愛那が雪田宅を訪ねると、すでに博希は門扉の前で待っていた。
フリルスリーブのギンガムチェック切替えトップスに、裾がフリルになったデニムミニスカート。足元はギンガムリボンのついたサンダル。いかにも女子小学生、それも低学年向けのファッションだ。彼もまた、透明なイチゴ柄のプールバッグを肩にかけている。
「お待たせ、ヒロ。今日はちゃんと準備して待っててくれたんだね」
「うん。その……楽しみだったから。昨夜もあんまり眠れなかったくらい」
「くすっ、前回とは大違いね。あたしが来るまで、準備もしてなかったのに」
幼馴染の指摘に、博希は顔を赤らめる。夏休みが始まってすぐのことを思い出したのだ。
「さ、行きましょっか。2週間ぶりね、ラグーンランド」
東京ラグーンランド。隣町にある、国内でも最大級のプールレジャー施設である。
ふたりは市内を走る直通バスに乗り込み、行列ののちにチケット売り場にたどり着く。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「高校生1枚、小学生1枚お願いします」
「あ、愛那っ!?」
平然と答える愛那に、博希は思わず声を裏返す。服装だけ見れば高校生の姉と小学生の妹に見えなくもないが、身長は「妹」である自分の方が高いのだ。
しかし売り場のお姉さんは怪しむ様子もなく、
「かしこまりました。ふふっ、ご姉妹ですか? どうぞ楽しんできてくださいね」
あっさりと通されて、なんだか申し訳ない気分になってくる。
「うぅ、いいのかなぁ……」
「その格好で男子高校生は無理でしょ。ほら、更衣室に行きましょ」
「うん」
プールレジャー施設なのだからとうぜんだが、入るためには水着に着替える必要がある。そしてこれまたとうぜん、更衣室は男女に分かれているのだが――
「や、やっぱり女子更衣室じゃないとダメかな……」
「当たり前でしょ。変なおじさんたちにエッチな目で見られたり、痴漢されたり、襲われたりしたらどうするの」
「……はい」
根が真面目な博希としては気が引けるが、観念して藍那とともに女子更衣室に入る。
と言っても、服を脱いでから水着に着替える女性客はあまりいない。みんな下に水着を着ているため、あとは服を脱ぐだけなのだ。
ふたりも更衣室の隅の方で服を脱ぎ、水着姿になる。
愛那は赤い三角ビキニセット。スタイルがいいため、シンプルなラインと鮮烈な色がよく映える。サンダルを脱ぎ、防水性のウエストポーチを付ければ準備完了だ。
そして、博希は――
「うんうん、可愛いわよ、ヒロ。いかにも女の子って感じで」
「あ……ありがとう……」
博希は恥じらいながらも、素直にお礼を言う。
彼が着ていたのは、淡いピンクにフリルがたっぷりとついた三角ビキニとパンツ、そしてボレロのセットであった。左腰にリボンのついたボレロは前開きになっていて、下にはいたパンツがちらりと覗いている。
ちなみに少年の証は下向きに押し込むように固定されているため、よほど凝視されなければバレることもなさそうだ。
「でも、ちょっと子供っぽすぎたかな……」
今さら不安になって、更衣室を見回す博希。身長160センチの彼が着るにはあまりにも幼いデザインではあったが、
「大丈夫よ、ヒロ。みんな自分が楽しむのに夢中で、他のお客さんのことなんて気にしないから、安心していいわ」
「う……それはそうだけど、でも……」
「それとも――見られたほうが、よかったのかな?」
「うっ」
図星を突かれ、博希はますます赤くなる。
愛那はにやにや笑って、
「さ、行きましょっか。今日こそはたくさん楽しみましょ?」
「うん!」
博希は満面の笑顔で、愛那とともに更衣室を出る。
「わぁっ……」
つい先々週に来たばかりの、ラグーンランド。
しかし、博希の目に映る光景は、一変していた。
入ってすぐのドームエリアにはたくさんの人が行き交い、目の前のビーチには、波打ち際で遊ぶ人の姿。遠くに見えるスライダーには、早くも行列ができている。
見ているだけで、心が躍る。胸が騒ぐ。あそこに行って遊びたいと、気がはやる。今まで感じたことのなかった昂揚に、突如として景色に色がついたような戸惑いすら覚えるほどだった。
(続く)