連載小説「女装強要妄想ノート」(36) (Pixiv Fanbox)
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4月第4週「女児女装で駅前に連れ出される」
(1)
「真弓、駅までお出かけするから、一緒にいらっしゃい」
ゴールデンウィークも目前に迫った、4月下旬の日曜日。
母親の言葉に、真弓は恐る恐る尋ねる。
「そ、それって、まさか、女の子の、格好で……?」
雛祭りから始まった、女装生活。それも女子小学生の制服やら、卒服やら、入学スーツやら、男子高校生はまず着ることのない女児服の数々を着せられてきたが、あくまで家の中か、せいぜい玄関先に限られていた。
しかし先週、パンツルックとはいえついに外に連れ出され、美容室で女の子らしい三つ編みにされた。いまも朝から妹のおさがり制服――赤いラインが入ったセーラー服を着て、長い三つ編みにリボンのヘアゴムがついているのだが、それはさておき。
(先週も女児服女装で外に連れ出されたけど、まさか今日は、女児服で駅前に連れ出されるんじゃ……!)
それは決して根拠のない不安ではない。なにしろ真弓に降りかかった一連の女装難の原因ともなった――と言うにはいささか自業自得だが、「こんなシチュエーションで女装させられたい」という妄想を書き連ねた例のノートにも、しっかり書かれていることなのだ。
「女児服を着せられて、駅前に連れ出される」
今までの流れを考えれば、真弓がおびえるのも無理からぬことであった、が――
「いいえ。高校の男子制服を着てらっしゃい」
「え……い、いいの?」
「ええ。最初から女児服で駅前ってのも酷だろうし、まだ女装しなくていいわ」
「ほっ……って、まだ!? いつかは女児服で、え、駅前に――」
いっしゅん胸をなでおろすものの、すぐに聞きとがめる真弓。しかし母親ははぐらかすように笑うばかりで、
(うう、いつかは女児服で駅前を連れまわされるってことか……)
(ま、まぁ、今日はふつうに男子制服で行かせてもらえるみたいだから、気が変わらないうちに早く着替えて来よう)
さっそく真弓は自室に戻って、男子制服に着替える。
男子用のシャツに、紺の上下と水色のネクタイ。着始めてからすでに1年以上になっているはずの男子制服は、いまだにブカブカで似合っていない。
手早く準備を済ませ、最後に念のために鏡を覗き込んだところで――ヘアゴムでツインテールにしたままだったことに気付く。慌てて髪をほどき、学校に行くときと同じように後ろで束ねたところで、
「ふたりとも、出かけるわよ」
「はーい」
下から母親に呼ばれ、真弓は妹の亜弓とともに、玄関に降りていった
*
「まずはシューズを見に行きましょうか」
駐車場に車を止め、駅ビルへと向かう道中で、母親はそう言っていた。
真弓も異論なくうなずく。ここのところ、隙あらば女装させられているため、車に乗せられている間も若干警戒モードだったのだが、今はすっかり気を抜いていた。
最初に入ったのは、駅ビルにほど近いシューズ専門店。
まずは亜弓のシューズ――女子用シューズ売り場へ。
「やった、Abbidasの新作出てる!」
彼女はお洒落なミュールやパンプスには目もくれず、熱心にスニーカーを選び始めた。
(可愛いシューズも選べばいいのに……って、オレが考えることじゃないか)
ついつい女の子らしい商品に目が行ってしまう自分に苦笑していると、
「さ、亜弓はまだしばらくかかりそうだし、真弓はこっちにいらっしゃい」
「うん」
母親に誘導され、素直についてゆく。
女子用シューズ売り場を離れ、男子用シューズ売り場へ――行くかと思いきや、その前を素通りして歩き続ける母親に、
「え? 母さん、どこに……?」
「ふふっ、こっちよ」
「こっち……? って、ここは……!」
戸惑いながらもついていった先に並ぶ商品を見て、真弓はようやく今回の「おでかけ」の主旨を悟る。
ピンクや水色など、パステルカラーのスニーカー。
ハートのバックルやリボンがついた、フォーマルなストラップシューズ。
他にもローヒールのパンプスに、ファー付きのブーツ、ジュートウェッジのサンダルなど――
(女児用の、シューズ売り場……!)
(女装はしないってだけで、今日来たのは、オレの女装用の服や靴を選ぶのが目的だったんだ――!)
(続く)