「思い出のワンピース」(11) (Pixiv Fanbox)
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「思い出のワンピース」
3.短いのがお好き(2)
「え……? いや、ここで着替えるのはちょっと……!」
「ママのことなら気にしなくていいわよ、ヒロちゃん。ヒロちゃんの体がどんなふうになってても、気にしないからね」
ひそかにワンピースの下で勃起しているのがバレていることを知り、博希はますます赤くなった。
それでも小さな妹のように、愛那に着替えさせてもらい――
「うわ……!」
自分の体を見下ろした博希は、改めてそのデザインの幼さに絶句する。
女の子らしいピンク色。よだれかけのようなスクエア襟。ふんわりと膨らんだパフスリーブ。いかにも女児服といわんばかりの、ストンとしたシルエットに、裾にあしらわれたサクランボ。
そして――もはや普通に立っていてさえショーツが見えてしまいそうな、短い丈。
「ね、ねぇ、これ、普通に立ってても、下着、見えてるんじゃ……!」
「ええ、もちろん。だって――そのくらい短いほうがヒロちゃんに喜んでもらえるかと思ったんだもの。どう? 嬉しい?」
「ううっ……」
またしてもストレートに返されて、博希は今度こそ正直に答えざるを得ない。
「うん、短くて、パンツが見えるくらいのほうが、嬉しい、です……」
「ふふ、よかった」
息子の答えに、母親は嬉しそうに破顔した。
その間に、愛那は彼の襟足のボタンを留め、ワンピースの裾を整えると、改めて正面に回り込んで、
「わぁっ、可愛い! くすくすっ、ほんとにスカートが短くて、昭和の女の子がタイムスリップしてきたみたい!」
「でしょう? 髪形ももうちょっと切って、おかっぱにすれば完璧なんだけど」
「でもこのままでも、じゅうぶん可愛いです。ほら、ヒロ、写真撮ってあげるから、笑って笑って」
さっそくカメラを取り出して、いつものように撮影しはじめる愛那だったが、
ピンポーン――
鳴り響いたチャイムに、博希はぎくりと身を硬くする。数日前の、愛那が乱入した時のことを思いだしたのだ。
「あら、ちょっと待っててちょうだいね」
しかも母親はインターフォンのモニターを素通りして玄関に向かう。すぐにドアが開く音ののち、リビングへと近づいてくる女性たちの話し声に
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
博希が青い顔で叫ぶが、時すでに遅し。
リビングのドアが開くと同時に顔を見せたのは、母親と仲がいい主婦3人組。彼女たちは博希を見るなり楽しそうに笑いだして、
「ま、可愛い娘さんだこと!」
「本当に博希くん?」
「そういうワンピース、懐かしいわねぇ」
ワイワイと話しながら入ってくる主婦たちに、女児服姿を見られた博希は一転、真っ赤になる。ご近所さんの顔をまともに見れず、母親に恨みがましい目を向けて、
「か、母さん、これ、どういうことなの……?」
「ふふっ、せっかくかわいいお洋服を着てるんだもの。ご近所さんにもみてもらおうと思ってね」
「は、恥ずかしいって……ぼく、男子高校生なのにこんな服が好きだなんて知られたら……」
「あら、好きだっていいじゃない。こんなに似合ってるんだし、ねぇ?」
「そうよ、博希くん。せっかくかわいいのに、もったいないわ」
「むしろ最近じゃ、女装男子が流行ってるらしいじゃない? 男の娘とか」
ご近所さんたちのとりなしにも、博希は少しも安心することができない。ワンピースの裾を押さえ、真っ赤になってうつむいていたが、
「ぼ、ぼく、2階に行ってます……!」
そう言って、逃げ出すようにリビングを後にした。
「あらあら、悪いことをしたわね」
「可愛いんだから、恥ずかしがることないのに」
「でも、恥ずかしいだけかしら? もしかしたら、別の理由があるのかも」
「ふふっ、そう言えばちらっと見えた下着に――」
主婦たちはくすくすと下世話な想像で笑う。
そんな彼らに、愛那はふと抱えていた悩みを思い出して、
「ねぇ、おばさまがた。ちょっとご相談したいことがあるんですけど――」
(続く)