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「思い出のワンピース」(10) (Pixiv Fanbox)

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「思い出のワンピース」   3.短いのがお好き(1)  岡崎愛那は悩んでいた。  幼馴染の博希が女児服での女装に目覚めたことを知ってから3日。その間も彼の女装姿を撮影し、アルバム作成のほうは順調だ。 (でも、あたしには――) 「どうしたの、愛那? 問題が難しい?」  勉強の手が止まっていたのを見かねたのだろう。隣で問題集を解いていた博希が、心配そうにのぞき込んでいた。この日は朝からダイニングテーブルに並び、ふたりで勉強しているところだったのだ。 「ううん、そうじゃないから、大丈夫。にしても――」 「ん?」 「その格好で勉強の心配されると、なんだか年下の妹に教わってるみたいで癪ね……」 「いや、そう言われても……」  着ている服――最初に作ってもらった水色のワンピースに微妙な目線を向けられて、彼は困ったような照れたような顔をする  そこへ母親が、紙袋を持って現れた。 「博希、新しい服ができたわよ」 「わぁ、ありがとう、母さん!」  博希は満面の笑みで立ち上がって駆け寄る。  愛那はそんな幼馴染を目を細めて見守ってから、期待に満ちた表情で博希の母親に視線を移して、 「今回は早かったですね、お母様。前回のジャンパースカートから、たった3日なのに」 「ふふっ、今回のはそれほど難しいものじゃなかったから。でも、とっても可愛いわよ?」  そういって紙袋から取り出し、広げて見せたのは―― 「わぁ、可愛い!」  博希がはしゃぎ声を上げ――口を押えて赤面する。 「くすくすっ、そんな格好してるんだから、今さら恥ずかしがらなくったっていいのに。……でも、ヒロが夢中になるのも、無理はないわね。いかにも女の子らしい、可愛いワンピースだもの」 「う、うん」  いまだ昂奮冷めやらぬ表情で、博希はワンピースを凝視する。  色はピンク。今までの服が水色、赤と来て、いかにも女の子の色であるピンクの服はなかったのだ。実はパジャマも2日前、母親が制服と一緒に買ってきてくれた女児用パジャマに切り替えていたが、それもたんぽぽのような黄色の、サッカー生地ワンピースとインナーパンツのセット。ピンクの服は、これが初めてである。  おまけに、そのデザインは―― 「ちょ、ちょっとこれは、子供っぽすぎるんじゃ……」  いまも水色のミニ丈ワンピースを着ている博希でさえ、声を上ずらせる。  大きく広がるAラインのシルエット。裾には大きなサクランボのアップリケが並び、ふちにはフリルがあしらわれている。襟から胸元にかけては、こちらもフリルのついた大きな白いスクエア襟で、左右の隅にこちらもサクランボ。後ろ側は中央が開いて、頭を通したあと襟足のボタンホックで留める構造だ。袖はふんわりとしたパフスリーブで、ゴムで絞られた袖口がフリルのようになっていた。 「確かにシンプルだけど、すっごく可愛いですね。まるで、昭和の女児服みたいな……」 「ふふ、愛那ちゃん、いいカンしてるわね。実は昭和の婦人雑誌に掲載されてた、女児服のパターンを見て作ってみたのよ。だから、割と簡単だったの」  母親はそう言って、持っていたワンピースを博希に渡し、 「はい、どうぞ」 「ありがとう! でもこれ、よく見たら、ちょっと丈が短すぎない……?」  素直に受け取ったものの、博希は震える声で指摘する。  そう――そのワンピースはほとんどチュニックと呼んでもいいほどの短さで、体の前に合わせてみても、股下に届くか届かないかくらいの丈しかなかったのである。  息子のまっとうな(そもそもワンピースの裾丈に文句を言う息子がまっとうかどうかはさておき)抗議に、母親はにっこり笑って、 「ええ。でも――短いほうが、好きなんでしょ?」 「うっ……!」  火の玉ストレートの指摘に、博希は思わず口ごもり、目をそらす。 「な、なんで、バレて――」 「ふふ、バレバレよ。前の膝丈ジャンパースカートの時に、ちょっと物足りなさそうな顔をしてたし――今日だって、丈が短いそのワンピースを着てるくらいなんだもの」 「うう……ごめんなさい……」 「謝ることはないのよ。でも――そういうことなら、早く言ってくれればよかったのに」  母親の忍び笑いに、博希はまずますいたたまれなくなってうつむいた。  愛那は立ち上がって、 「さ、ヒロ。あたしが着せてあげるから、ワンピースを脱いでちょうだい」   (続く)

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