「思い出のワンピース」(4) (Pixiv Fanbox)
Content
「思い出のワンピース」
1.10年目のワンピース(3)
「まぁ、可愛い!」
博希が恐る恐るリビングのドアを開いた途端、母親から賛嘆の声が上がった。
10年前と同じ水色のワンピースで、少女の装いをした息子の姿を上から下まで眺めまわし、
「うんうん、いいじゃない。あの頃と同じ――とはいかないけど、これはこれでとっても似合ってるわ。可愛いわよ、ヒロ」
「ほんと……? っていうかちょっとこれ、スカート短すぎない……?」
ワンピースの裾を押さえて太ももを隠そうと無駄な努力をしながら、恨めしげに母親を見ると、
「スカート丈は――うん、確かにちょっと短かったわね。お洋服を作るのは久しぶりだから、感覚が狂っちゃったみたい。でも短いのも、あのころみたいで可愛いわ」
「そうかなぁ……?」
「ええ。さ、もっと可愛くあげるから、こっちにいらっしゃい」
母親はそう言って、ダイニングのチェアの一つを引き、そこに座るよう促した。目の前のテーブルには、ヘアブラシのほか、博希には名前も使い道もわからない化粧品がずらりと並べられている。
「お、お化粧までしなくても……!」
「やるならとことん、よ。さ、座って座って」
「……はーい」
母親が満足するまで付き合うしかなさそうだと、博希はあきらめてチェアに座る。
「さて、どうしようかしら。チークだけちょっと濃いめに、お人形さんみたいな感じで行こうかしら」
そういって、ヘアバンドで前髪をを後ろに流しておでこまで露出させたあと、メイクを施し始めた。
液体を塗ったり、粉末をはたいたり、眉毛をそろえたり、線を引いたり、睫毛や唇を塗ったり――顔のあちこちを触られ、化粧品独特のにおいが鼻腔を刺激して、博希はいろいろな意味でくすぐったい思いをする。
メイクの後はヘアバンドを外し、髪の毛にも手が入れられる。毛先を整えて丁寧にブラッシングすると、もともとサラサラだった髪はさらに艶を増し、長くはあったものの少年らしかった髪形は、すっかり少女のそれとしか見えなくなっていた。
「はい、ヒロちゃん。可愛くなった自分のお顔、見てごらんなさい」
「えっ……」
目の前に鏡を突き付けられ、自分の顔を見た博希の口から、愕然とした声が漏れた。
「この女の子が――ぼく……?」
「ええ、そうよ。これが、今のヒロちゃんなの」
鏡には、美少女が写っていた。
やや丸顔の、おかっぱ頭の少女だ。整った眉毛に、大きな目にかかる長い睫毛、形の良い艶やかな唇に、ふっくらと紅い頬。艶やかな髪は、やや長めのおかっぱ頭に切りそろえられている。大きな丸襟の女児服ワンピースも、まるでお人形さんのようなこの「少女」には、よく似合っていた。
「すごい……信じられない……」
ドクン。ドクン。
女児服を見せられてから何度となく感じてきた高鳴りに、博希が胸を押さえていると、
「ふふっ、着てくれてありがとう、ヒロちゃん。どうする? もう着替える?」
「う、うん――」
渡りに船と、肯きかけた博希。しかし、次に彼の口から飛び出した言葉は、彼自身も思いもよらないものだった。
「か、母さんは、まだぼくに、着てて欲しい……?」
「え……? ええ、もちろん! せっかく作ったんだもの、着てるところを見せてほしいわ!」
「な、なら、しばらくこのまま、着ることにする」
「ふふっ、ありがとう、ヒロちゃん」
母親は無理に心変わりの理由を問いただそうとはせず、テーブルの上に並べたままの化粧品をポーチにしまってゆく。
博希はチェアに座ったまま、
(なんでぼく、あんなことを言っちゃったんだろう)
(確かに、せっかく母さんが数日がかりで手作りしてくれた洋服を、ほんの数分しか着ないのは不義理だと思ったのはあるけど)
(だからって、これれじゃまるで――まるで、母さんの言葉を口実にして、自分から着たがっているみたいじゃないか)
体を包む、女児下着と、女児服の肌触り。特に頼りない、スカートの着心地。母親に化粧を施された感触の残る顔と、そこから漂う、化粧品の香り。
全身を通して感じる「少女の装い」に、胸が高鳴り、体のあちこちがむずがゆくなる。
それは決して不快ではなかったが――その時、彼の体にさらなる異変が起こる。
(うっ……チンコが、むずむずする……!)
博希にとって、生まれて初めての経験だった。こっそりスカートの上から股間に手を当てた彼は、さらなる驚愕に目を見開いた。
ショーツの内側で、少年の証が一回り膨らみながら硬くなっていたのだ。
(これって、まさか、勃起……!?)
(続く)