「姉ママ」(9) (Pixiv Fanbox)
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(9)
「さ、ちょっとこっちに来てちょうだいねー」
ベビーベッドに身を乗り出した姉が言った直後、その軽い口調とは裏腹に猛烈な力で、ヒカリは姉の方に引き寄せられていた。
ヒカリは驚きに目を丸くして、
「なっ……!? 姉ちゃん、何でそんな力が――!」
姉は女性としてはやや高いといっても162センチ、格闘技や介護の経験があるわけでもなく、外見相応の腕力しか持っていない。一方でヒカリは170センチ、やや細身とはいえ男子高校生らしい体格だし、何より相応の体重がある。なのにアカリの細腕は軽々と、弟の体を引き寄せていた。
「ふふっ、ママなんだから、赤ちゃんのヒカリちゃんなんて軽いものよ」
アカリは当然のように答えると、
「さ、ベッドが汚れないようにおむつ交換用のシートを敷くから、ちょっと足をあげててちょうだいね」
さらに片腕をヒカリの両膝裏に入れ、持ち上げてお尻を浮かせてしまう。そしてその間に、おしめ交換用のシート――ピンクに白い星柄の、裏地が防水布になったシートを敷きこんでいた。
「はい、これで大丈夫よ。いい子にできて、えらかったわねー」
「う……」
褒められても、ただただ恥ずかしいばかりだ。いや、脚を持ち上げられそうになった瞬間、ヒカリは思わず抵抗しようとしたのだが、それすらも姉にとっては何の問題にもならなかったらしい。
(これも、この世界の「ルール」か……!)
非現実的な事態であったが、すでに何度も異常を経験しているヒカリは、理解のプロセスを省略して法則だけを受け入れる。
(おそらく「オレは彼女の赤ちゃん」っていう力関係が成立しているんだ。腕力とか体重とか、一切関係なく――)
チョキがグーに勝てないように。赤ちゃんであるヒカリは、「ママ」であるアカリに腕力で対抗できず、軽々と持ち上げられ、引っ張られてしまう。腕力ずくでの抵抗は無意味――そのことを体で理解させられて、ヒカリは己が無力に表情をこわばらせた。
そして膝を曲げた状態で大きく開き、足裏はベッドの縁ぎりぎりにべったりとついたいまのポーズは、まさにおむつ交換される赤ちゃんそのものであった。
「うくっ……!」
剥き出しになった両脚を蛙のように広げ、おむつによってまん丸に膨らんだ下半身を直視される恥ずかしさに、ヒカリは唇を噛む。
「さぁ、おもらしおむつ、気持ち悪いでしょ? いまおむつを替えてあげるから、じっとしててちょうだいねー」
(確かに、びしょびしょに濡れたおむつがべったり密着してるのは気持ち悪いけど――)
(でも、姉ちゃんに交換されるってことは、ち、チンコ、見られちゃう……!)
避けがたい羞恥の予感に、ヒカリは身をすくませる。きつく握りしめた両手を、ガードするように胸元に引き寄せたその姿に、
「ふふっ、怯えなくても大丈夫よ、ヒカリちゃん。ほんとは高校生のヒカリちゃんにはちょっと恥ずかしいかもしれないけど――大丈夫、すぐに慣れるわ」
「な、慣れたく、ないってば……!」
精いっぱい言い返そうとするも、声が震えて上ずり、いっそう子供っぽくなってしまう。赤ちゃん扱いされたせいで、精神まで幼くなってしまったかのように。
アカリはくすくす笑いながら、いよいよヒカリのロンパースの股間に手を伸ばし、そこに並ぶスナップボタンに指をかけた。
ぷつっ――
意外なほど硬く大きな音が、二度、三度と響く。
先ほどヒカリが自力で外した時は即座に巻き戻されたボタンも、いまは何の問題もなく外れていた。そして――
「ほーらヒカリちゃん、見てごらん。今まではロンパースで隠れちゃってたけど、布おむつカバーも、とっても可愛いでしょ?」
「あ、あ……!」
腹部までめくりあげられた、ピンクのギンガムチェックとイチゴ柄のロンパース。その下から現れたのは、淡い黄色に白と赤のリボンがプリントされた柄のおむつカバーであった。横羽をマジックテープで留め、前当てをスナップボタンで留める構造だ。
「っ……!」
いかにも赤ちゃんらしい布おむつカバーが、自分の下半身を覆っている光景に、ヒカリは思わず目を逸らす。しかし一度瞼の裏に焼き付いてしまった映像は消えず、下半身をぴったりと包むおむつの感触がいっそう生々しさを増すのを、止めることはできなかった。
「ふふっ、恥ずかしがらなくていいのよ。ほら、いまお姉ちゃんが、カバーを外してあげるからね――」
優しい姉の語りかけとともに、再びスナップボタンが外れる音が響いた。
(続く)