「姉ママ」(8) (Pixiv Fanbox)
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(8)
「ひっ!?」
少年の部位を触られるのはあまりにも予想外で、ヒカリは喉の奥から悲鳴を発する。
異性の性器に触れる手は、決して淫らな動きではなく、母親、あるいは姉が、幼子のおむつを確認するためのもの。しかしそれだけに遠慮なく股間をまさぐる動きに、ヒカリは思わず叫んでいた。
「や、やめろよ、姉ちゃんっ!」
言った瞬間、ヒカリはさっと青ざめる。
(しまった、思わず声を出しちゃったけど、また戻されるんじゃ――)
しかし想像に反して、ロールバックは起こらない。
アカリもほんのちょっぴり、困ったような表情になっただけで、
「ちょっと、ヒカリちゃん。おねしょしてないか確認してるだけなんだから、いやいやしないでちょうだい」
「う……で、でも、それならオレに聞けば――」
「もう、ヒカリは赤ちゃんなんだから、おねしょしちゃった、なんて自分から言ったらおかしいでしょ?」
筋が通っているようで、通っていない。完全に赤ちゃん扱いならば、こうして会話していること自体がおかしいのだ。
つまり、これは――
「あ、赤ちゃん、プレイ……?」
「ええ、そうよ。ヒカリは赤ちゃんの役なんだから、ちゃんと赤ちゃんになりきってくれないと」
「な、なんでそんな――どうして、オレが赤ちゃんに――」
「さっきから、変なことばっかり言うのねぇ、ヒカリちゃんったら。ああ、それとも、そういうていでのプレイがお好みなのかしら?」
アカリは納得したようにうなずいて、
「もともとヒカリちゃんが、女の子の赤ちゃんになりたいってお願いしたから、お姉ちゃんがママになってあげたんでしょ?」
「……………………」
ヒカリは言葉を失った。
もちろんまったく身に覚えのない「お願い」だったが、否定すれば間違いなく時間が巻き戻ってしまうであろうことを察して用心深く口をつぐみ、かわりにいまの情報をインプットし、世界への認識をアップデートする。
(この世界だと、オレが姉ちゃんにお願いして、女の子の赤ちゃんにしてもらってるのか。で、姉ちゃんはオレの「ママ」になっていると)
(完全な赤ちゃんじゃなくてベビープレイだから、ちょっと話したり、嫌がって見せたりするくらいなら「プレイの範囲」「ちょっと恥ずかしがっている」で済むらしい)
(ただ、そのプレイからも逸脱するような行動をとるとロールバックが起きる「ルール」になってるのか。ベビー服を脱いだり、部屋から出たり、外に助けを求めたりしようとした時みたいに)
(なら、姉ちゃんを説得しようとしたら、どうなるんだ――?)
ヒカリは分析しつつ、この状況から抜け出す手段を思考する。
「だからこうして、ヒカリちゃんのためにお部屋を可愛くしてあげて、女の子用のベビー服や小物、おむつなんかもそろえて、完全に赤ちゃんとして生活できるようにしてあげたのに――ふふっ、じっさいにやってみると思ったより恥ずかしかったのかしら?」
「う……は、恥ずかしいから、やっぱりやめるってのは、ダメ……?」
探るように、軽い説得を試みる。巻き戻されるかと警戒したがそんなことはなく、代わりにたしなめるように微笑まれただけだった。
「だめよ、ヒカリちゃん。男の子なんだから、一度決めたことはちゃんとやり遂げないと。ふふっ、でもいいわ。恥ずかしいけどお姉ちゃんに無理やり女児ベビープレイをさせられてる――ヒカリちゃんはそういうプレイがお望みなのね?」
「う……うん……」
これ以上の説得は危険と判断し、ヒカリはとりあえずうなずく。
(恥ずかしがるのもプレイのうちってことにしておけば、おもわず嫌そうな声が出ても、巻き戻りが起きる可能性を低くできるだろうし――)
アカリはうんうんとうなずいて、
「わかったわ。さ、そんなことよりも、やっぱりヒカリちゃん、おねしょしちゃってるみたいね。お姉ちゃんが、ヒカリちゃんのおねしょおむつを取り替えてあげる。かぶれてかゆいかゆいになっちゃったら、大変だものね」
アカリはそう言って、弟の足元側に回り込むと、ベビーベッドの柵を下ろす。
いよいよ迫る「おむつ交換」の時に、ヒカリは顔を引きつらせて、喉を鳴らした。
(続く)