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「姉ママ」(5) (Pixiv Fanbox)

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  (5)  しかし赤ちゃんにされていると考えれば、異常事態にもある程度の輪郭が見えてくる。  パステルカラーの室内。柵のついたベッドはベビーベッドで、頭上に下がっているのはメリーサークル。着せられているのはベビー用の肌着――ロンパースだろう。 (とすると、股間からお尻に当てられてるのは、布おむつで……口の中に入っているのは、おしゃぶり……?)  さらによく見れば、両手には指のない手袋――ミトンがはめられているし、頭には頭巾のようなもの――ベビーボンネットがかぶせられている。どう見てもベビールック――それも色合いや、あちこちについているレースとフリルからして、着せられているのは女児ベビー服のようだった。  事態を把握するとすぐ、全身に火がついたような羞恥がこみあげて、 「ん――な、なんで……?」  ヒカリは口からおしゃぶりを外して叫び、ベッドの上で起き上がった。起きてからしばらく周囲を見まわしていたため、暗闇にもだいぶ目は慣れてきている。  改めて見ると、そこはやはりベビールームであった。床はカーペットタイルで、家具もクローゼットにキャビネット、蓋のついたゴミ箱くらい。  壁紙も、色ははっきりとわからないが、パステルカラーっぽいストライプ柄だ。さらに壁のあちこちには、女児用と思われる丸襟やパフスリーブ、フリルやスカートのついたベビー服が吊るされているようだった。  ロンパース。フリルブルマー。ブラウスにジャンパースカート、ベビースーツのアンサンブル。しかしそれらはよく見れば、 (な、何でどれもこれも、あんなにでかいサイズなんだ――?)  いくら大きい子用と言っても限度がある。壁に掛かっている「女児ベビー服」のサイズは優に170センチ、つまりはヒカリでも問題なく着られるものばかりなのだ。 (そういえば、いま着せられてるこれもベビー服っぽいし、おしゃぶりも赤ちゃん用にしては大きすぎる。よくよく考えればこのベビーベッドも、普通のサイズじゃなさそうだ。なんだこれ、大人サイズのベビーベッドと、ベビー服と、おしゃぶり……?)  周囲の状況は(理解したくはなかったが)理解した。  しかしそうなると、とうぜん次の疑問がわく。 (どうしてオレ、ベビールームにいて、こんなベビー服を着せられて、バカでかいベビーベッドに寝かされてるんだ……? 昨日は普通に、自分の部屋で寝たはずなのに……) (まるで悪夢だ……いや、夢なら、いいんだけど……)  一抹の期待を込めて、ミトンを手から外し、頬をつねってみる。しかし痛みは無慈悲に、この異常事態が現実であることを伝えていた。 (いてて、やっぱり、現実か――じゃあ、どうして、こんなことに……) (寝てる間に着替えさせられて、この部屋に運び込まれたのか……?)  そう考えるのが一番現実的だろうが、だとすると次なる疑問が浮かぶ。  誰が、何のために――? (オレが寝ている間にあれこれできるのは、家族くらいしかいないだろうけど――)  家族がやったことにしても大掛かりすぎる。こんなベビールーム、彼の家には存在しないのだ。 (確かに元々、オレの部屋はベビールームだったけど、とっくに改装したんだし、だいいちこんな、女の子の赤ちゃんみたいな部屋じゃなかったはず――まして、こんなベッドやベビー服なんてあるわけが……) (いや、でも――) (この部屋、改装前のベビールームと、間取りはほとんど一緒だ……) (まるで、オレの部屋が改装されずにベビールームとして残されて、さらにそれを女の子向けにしたみたいな――)  嫌な想像が膨らみ、ヒカリは慌てて首を振る。 (と、とにかくこの部屋から出て、様子を見よう! 本当なら、おむつやベビー服も脱ぎたいけど、着替えもなさそうだし……)  ヒカリはベビーベッドから立ち上がり、柵を乗り越えて外に出る。室内は暗く、たっぷりと内ももの間に当てられているおむつのせいで動きにくかったが、このさい構っていられない。  まっすぐドアに向かい、ノブに手をかけて―― 「んぅ?」  意識が暗転した次の瞬間には、彼は再びベビーベッドの上にあおむけになり、おしゃぶりを咥えて、メリーサークルを見上げていた。 (な、何で……元の場所に、寝かされて……?)  混乱しながらも、再び同じように外に出ようと試みる。しかし何度挑んでも、ドアノブに手をかけた瞬間にベッドの上に引き戻されていた。 (なんだ、これ――)  ベビールームにいて、ベビー服を着せられている――そんな辛うじて説明のつく異常事態とは全く次元の異なる、正真正銘の非現実的な異変に、ヒカリはいよいよ悪夢のような気分に陥った。   (続く)

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