「姉ママ」(2) (Pixiv Fanbox)
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(2)
大人しくなった弟を、姉は満足げに見ると、
「じゃあ、制服を着せてあげるね」
そういって、壁に掛かっている女子小学生用の制服を下ろすと、当然のようにハンガーから外し始めた。
(や、やっぱり……!)
驚きは声に出せず、ヒカリは目の前で広げられてゆく制服を見守る。
昨日の段階でうすうす察していたことではあるが、改めてそれを自分が着せられるのだと思うと、まるで永遠に外すことのできない呪われた装備の封印が解かれていくような、恐怖と戦慄が走り抜けた。
(オレ、この制服を着て、学校に通わされるんだ――)
(でもいったい、どの学校に……?)
「ね、姉ちゃん」
「なぁに、ヒカリちゃん?」
アカリは17歳の弟に、女児用の丸襟ブラウスを着せてあげながら訊き返す。
「お、オレ、この制服を着て――いったい、どこの学校に、通うの?」
「ふふっ、ヒカリったら、おかしなことを言うのね」
目の前の異常な状況は完全に無視して、アカリはくすくすと笑う。
「もちろん、小学校に決まってるじゃない。ブラウスに、リボンに、吊りスカートに、イートンジャケット――どう見ても、女子小学生の制服でしょ?」
「そ、それは、そうだけど……でも、こんな部屋じゃ、お勉強できないんじゃ……」
「もう、ヒカリちゃんったら、変なことばっかり言うんだから」
アカリはなおも笑いながら、
「お勉強するお部屋は、お姉ちゃんとの相部屋でしょ? ちゃんとヒカリちゃんの勉強机も、ランドセルもそこにあるんだから、心配いらないわよ」
さも当然とばかりに言うが、もちろんヒカリにとっては異常事態である。
確かに姉と相部屋で、デスクを並べて寝起きしていた時期はあるが、それは彼が小学生のころだ。中学に上がるのをきっかけに、この部屋――もとはベビールームとして使われていた部屋を改装してもらい、勉強机も移動させて、自分用の部屋として譲り受けたのである。
しかし「いま」は、勉強するのは姉との相部屋のまま。しかもベビールームは、いまだにベビールームのままで彼の部屋として使われているらしい。それも女児らしい内装に変えられ、170センチのヒカリが赤ちゃんとして過ごすのに不自由のない形に変えられて。
「…………」
半ば予想通りとはいえ、ヒカリはこの「現実」の異常を再確認して唖然とする。
その間にも、アカリは次々と弟に制服を着せていった。
ブラウスの前ボタンを留められ、吊りスカートに脚を通して、肩にサスペンダーをひっかけてから、脇のホックを留め、ファスナーを閉じて。襟もとにリボンを結んで、ジャケットを羽織って、ダブルボタンを留めて。最後に白のハイソックスも履かせてもらって、
「これでよし、と」
女子小学生制服一式を着用した弟の姿を上から下まで見て、アカリは満足げにうなずく。
しかしヒカリは、
(は、恥ずかしい……!)
(高校生にもなって、こんな、女子小学生の制服を着せられるだなんて――!)
上半身は柔らかなキャミソールの上から、パリッとした長袖のブラウスと、重みのあるジャケット。
下半身はあまりにも頼りないスカート――しかしそれでいて、プリーツの重みと肌触りが存在感を主張する。
なによりも、そのスカートの内側で下半身を覆っているおむつカバーの圧迫感と、その内側にたっぷりとあてられたおむつのもこもことした感触は、女装願望も女装経験も、ましてやおむつ趣味など持ち合わせていないヒカリにとっては、気が狂いそうなほどに恥ずかしかった。
(スカートの下は布おむつを当ててるだなんて、完全に変態じゃないか……!)
今すぐこの場から逃げ出して、全部脱ぎ捨ててしまいたくなるほどだったが、
「……………………」
ヒカリは唇を噛んで、いっそ全裸で外を走り回ったほうがましなほどの恥ずかしさに耐える。
そんな弟の表情に、アカリはを安心させるように微笑みかけ、赤い名札を彼の胸につけてあげながら話しかける。
「ふふっ、大丈夫よ、ヒカリちゃん。お姉ちゃんは学校までついていけないけど、おもらししちゃったら、先生やお友達が、面倒を見てくれるからね」
「う……うん……」
「もしも」などの前置きすらない、おもらしすること前提の言葉に、ヒカリはいよいよ追い詰められてゆく。
(つまり学校でも、何度も何度もおもらしして、そのたびに、誰かに交換してもらわなくちゃいけないんだ――先生や、下手すれば友達にも、見られて――)
当たり前のように言う姉の言葉に、ヒカリは無為を承知で言い返したくなるのを、必死でこらえなければならなかった。
(続く)