「姉ママ」（１） (Pixiv Fanbox)

　前に書いていた「あねママ」を諦めて、同じキャラで新しく書き始めました。キャラが同じだけで内容は違いますので、ご了承ください。 　　（１） 「さぁ、ヒカリちゃん。お姉ちゃんがお着換えさせてあげますから、じっとしていてちょうだいね～」 「は、はぁい、お姉ちゃん」 　牧野ヒカリはピンクのギンガムチェック×レース柄プリントの布おむつカバー１枚の姿で答えた。中にはたくさん布おむつを当てていると見えて、前側も後ろ側もまん丸に膨らんでいる。 　こう書くと、あたかも幼稚園に通う前の女の子のようだったが、ヒカリの身長は１７０センチ近い。髪も短く、顔立ちもやや可愛らしい部類とはいえ少年のもの――事実、ヒカリは本来であれば高校に通っているべき、１７の少年であった。 　しかし、今や―― （なんで……３日前まで高校に通っていた俺が、どうしてこんなことに……！） 　いまだに信じられない思いで、ヒカリは部屋を見回す。 　本来ここは、彼の部屋のはずだった。男子高校生らしい青系のベッドシーツとカーテン、壁には高校の男子制服。小学生のころから使っている勉強机と、少年漫画とスポーツ雑誌が並んだ本棚、テレビにゲーム機。こまめに掃除していたとはいえ、部屋全体に、汗と体臭と雄の匂いが漂っていたはずだ。 　しかし今では、壁紙はパステルカラーのストライプ柄、カーテンはピンク地にベビーグッズ柄をプリントしたものに代わり、壁に吊られて並んでいるのは、いずれも女児ベビー服の数々。ロンパースにベビースーツ、ブルマードレスにジャンパースカート。そのどれもがピンクや黄色や水色で、フリルやレースなどもあしらわれた可愛らしいデザインのものだったが、「ベビー服」と言うにはサイズを逸脱していて、１７０センチのヒカリであっても着られる大きさのものばかりだった。その中にあって一着だけ、これまた彼が着られるサイズの女子小学生制服――丸襟ブラウスにエンジ色のリボン、紺のプリーツスカートとダブルイートンジャケット、黄色い安全帽と赤い名札があるのがまた、異様と言えば異様だった。 　あるべき勉強机や本棚の類も一切なく、かわりにあるのはクローゼットとキャビネット。収納されているのは、ベビー服や布おむつカバー、そして大量の布おむつであった。 　そして男臭いベッドの代わりに、部屋の中央に置かれていたのは、まるで檻のような柵によって囲われたベビーベッド――しかしサイズだけが大人用だ。上にはメリーサークルが、様々なおもちゃをぶら下げて吊られている。 　明らかにベビールーム、それも女児用のものとしか思えない雰囲気の部屋だったが、吊られている服も、ベビーベッドも、ヒカリのサイズに合わせてのもの。位置的にも、自宅２階廊下の突き当りにあるこの部屋が、ヒカリの自室で間違いないのだ。 　そして、何より―― 「どうしたの、ヒカリちゃん？　不思議そうにお部屋を見回して。ここがヒカリちゃんのお部屋で、間違いないのよ？」 　ヒカリの前で優しく微笑む女性が、ここがヒカリの部屋であると断言する。 　背中まで届く栗色のロングヘアを、大きな一本の三つ編みに結わえ、儚げながらも優しい雰囲気を纏った女性こそ、ヒカリの姉のアカリである。 　二つ違いで、ずっと一緒に育ってきた姉と弟。しかしアカリは、男子高校生であるはずのヒカリが、自分より背の高い男子が、可愛らしいおむつカバー１枚の姿であることにも、このベビールームが弟の部屋であることにも、何の疑問も抱いていない様子だった。 「さぁ、もうすぐ学校の時間だし、お姉ちゃんが制服を着せてあげましょうね」 　姉の言葉に、ヒカリはビクッと反応する。 　学校。本来であれば、彼が数日前まで通っていた都立高校の話だと考えるのが自然だ。 　しかし、昨日から現在まで続く異常な状況と、弟を赤ちゃん扱いする姉の異常な態度、何より壁に掛かった女子小学生の制服が、そんな楽観を許してはくれず―― 「ふふっ、まずは下着からね。下はおむつカバーでいいとして、やっぱり上も、ちゃんと着ないとダメだものね」 　姉はそう言ってクローゼットの引き出しを開けると、中から女児用のキャミソールを取り出す。肩紐と裾についたバイピングがピンク、フロントに大きなリボンがプリントされたもので、 「はい、ばんざーいしてちょうだい」 「う……ばんざーい……」 　姉の誘導に、本当に赤ちゃんになってしまったかのように従うヒカリ。別に、本心では喜んでやっているわけでも、逆に体が勝手に操られているわけでもなく、 （姉ちゃんの「赤ちゃんごっこ」には、絶対に、絶対に、逆らえないんだから――） 　上半身を柔らかなキャミソールに包まれながら、しかしその着心地の良さにこそ心を辱められて、ヒカリは小さく唇を噛んだ。 　　（続く）