連載小説「女装強要妄想ノート」(26) (Pixiv Fanbox)
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4月第2週「女児用入学スーツを着せられる」
(1)
春休みも終わり、始業式翌日の帰り道。
「はぁ、入学式、疲れた……ああいう式典って、肩凝るんだよな……」
佐々木真弓は家近くのバス停で降りたところで、うーんと伸びをして歩き出す。後ろに結んだ長い髪をなびかせつつ、
「ったく、どいつもこいつも『お前が新入生に交じっても誰も気づかなさそう』だの、『小学校の入学式でもいけるんじゃないか』だの、好き放題言いやがって。オレが小学1年生は、さすがに無理がありすぎるだろ……」
級友たちに揶揄われたことを思い出し、じゃっかん不機嫌になっていると、
「あっ、真弓おにーちゃんだ!」
「あら真弓くん。こんにちは」
向こうからやってきた親子連れに声をかけられて、真弓は慌ててお辞儀を返す。
「こんにちは、玉井さん――と、成香(なりか)ちゃん。入学式の帰り?」
「うん! にゅーがくしき、いってきたの!」
少女の元気な答えに、真弓は小さく笑う。
玉井成香。近所に住む少女で、誰にでも物怖じしない性格から、年の離れている真弓とも顔見知りであった。もっとも、最初のころは彼女から「お姉ちゃん」呼びされて、そのたびに真弓は大人げなくも訂正していたのだが。
(そっか……成香ちゃんも、もう小学生か……)
入学式帰りだと一目でわかったのは、彼女がグレーの女児用アンサンブルスーツを着ていたからだった。ワンピースの上からボレロを重ねるタイプで、レースのついた大きい丸襟と、裾にあしらわれた白いバイピングテープが上品な印象だ。
頭には黄色い通学帽子、背中にはピンクのランドセル、胸元に名札を付けた小学生スタイルに、真弓はいっしゅんぎくりとする。
(オレも家では、女子小学校の格好をしてる――だなんて、絶対言えないよな……)
「どうしたの? 真弓おにーちゃん?」
「う、ううん、なんでもないよ。成香ちゃんのスーツ姿、可愛くて、よく似合ってるなって」
「えへへー、でしょ? ママにお願いして、買ってもらったの!」
嬉しそうに笑み崩れる成香。
玉井母娘と別れて、真弓は再び自宅へと歩き出す。しかし頭の中は、先ほどかいわをかわした成香のことで、一敗だった。もちろん、ロリコン的な意味ではない。
(前まではもっと小さかったのに……はぁ、この分だと、またあっという間に追い越されちゃうんだろうな……)
彼女の身長は6歳の少女としては高いほうで、130近くある。真弓とは10センチ程度しか違わず、その成長に驚きながらも、やや憂鬱になる。
(ほんとにオレが小学校の入学式に混ざっても「ちょっと背が高いわね」くらいで済んじゃうのか……?)
ふるふる、と頭を振って考えないようにする。
(それにしても――成香ちゃんのスーツ、可愛かったなぁ)
(入学式用の、アンサンブルスーツ――普通のスーツも可愛いけど、ボレロとの組み合わせは入学式独特だよね。ブラウスにジャンパースカートとボレロで、ブラウスの襟が見えるようにするのもいいし、ワンピースに襟付きのボレロでもいいし……)
(い、いや、別にオレが着たいなんて気持ちは――ほんのちょっとしかないけど)
(でもまぁ、さすがにオレのサイズの入学スーツなんてないんだから、今さら着せられるってことはないだろうな、うん――)
(って、なんでオレ、ちょっと残念な気持ちになってるんだよ……!)
女の子が可愛い服を着ているのを見ても、反射的に自分が着せられることを考えてしまう。
(そういえば、例の「女装妄想ノート」にも、入学式がらみのは書いてたっけ)
妹が女子小学校に通っていたこともあり、小学校がらみの女装妄想は結構多い。
「妹の身代わりで小学校に通わされる」
「妹の女子制服を着せられる」
「落第して、女子小学校に通わされる」
その中には、
「女児用入学スーツを着せられる」
という一文も入っていた。
「まぁ、さすがにないだろうけどね――」
つぶやいたところで、ちょうど自宅にたどり着く。チャイムを鳴らして、
「ただいま、母さん」
「おかえり、真弓」
ガチャリと鍵が開く音がして、真弓はドアを開け――
「な、なに、それ!?」
出迎えた母親が片手に持っていたものを見て、真弓は驚きに声を上ずらせる。
小さなフリルがあしらわれた、丸襟ブラウス。ピンクの千鳥格子柄ジャンパースカートと、上品なグレーのボレロ――それは先ほど成香が着ていたのと同様の、しかしそれ以上に女の子らしい入学スーツだったのである。
(続く)