SS「プレゼント」(2) (Pixiv Fanbox)
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(2)
「何でこんなものが、プレゼントに――なにかの間違いじゃないのかな……」
翌朝。
枕元に置かれた封筒と、その中にある書類の数々を見て、雄太はそう呟いていた。
「どうして……あたし、本当は18歳なのに、なんでプレゼントが……」
しかし母親は小さく笑って、
「ふふっ、女の子になりきってるユウコちゃんに、特別にってことじゃないかしら。もしかしたら、あんまりユウコちゃんが可愛いから、サンタさんも勘違いしたのかもしれないわね」
「う……そうなのかな……」
雄太は顔を赤らめて、
「でも――こんな、女子小学校の入学書類なんて……!」
「プレゼント」の封筒――その中に入っていたのは、女子小学校の入学にかかわるもろもろの書類と、入学案内のレジュメであった。
戸惑う雄太に、しかし母親はにっこり笑って、
「いいじゃない。この春で高校も卒業なんだから、タイミング的にもちょうどでしょ?
その女子小学校自体は比較的近所にあるため、通うのは難しくない。しかも制服は丸襟ブラウスに赤系吊りスカートとピンクのイートンジャケットという、見かけるたびに着てみたいと思っていた可愛らしいデザインなのだ。あの制服を着て、女子小学生として学校に通いたくないと言ったら嘘になる。
(でも、高校生から、女子小学生に――そんなことになったら……)
人生や将来といった真面目なことを考えると、とても素直に喜んで「女子小学生になります!」と言えるものではない。
しかし――
「いいじゃない、女子小学生になったら。大学に入る前に浪人する人だっているんだし、1年くらい女子小学生になっても、大丈夫だと思うわよ」
「う……そ、そう、かな……」
母親に前向きなことを言われると、つい心が傾いてしまう。
「……うん、じゃあ、あたし、女子小学生になる――」
答えると、胸はいっそう高鳴った。
もっとも、実際にそうすんなりいくとは思っていなかった。何しろ出所不明の入学関連書類である。学校から門前払いを食わされる可能性も高い。その時には1年浪人しつつ、市販の女児制服を着て女子小学生になり切る生活を送ろうと考えていたのだが――
必要事項を記入して学校にもっていったところ、あっさり通ってしまった。簡単な試験ののちに許可が下り、あれよあれよという間に来年から1年生として通うことが決まってしまったのだ。
「あたしが、女子小学生に――なんだか、夢みたい……」
友人たちが大学に進む中、ひとり小学生になることへの不安はあったが、それ以上に驚きと喜びの方が大きかった。
3月末に高校を卒業。そして4月に女子小学生として迎えた、入学式――
「ご入学、おめでとうございます!」
「お姉ちゃんたち、ありがとうございます」
ピンクの女子制服を身にまとい、自分より年下の「先輩」に歓迎され、手を引かれて、雄太は小学校の門をくぐった。
胸元の名札は「すぎやま ゆうた」と、一目で男子とわかるし、髪型こそ女の子らしく二つ結びのおさげにしているとはいえ、背格好も170センチの少年なのだが――事前に説明があったのか、「お姉ちゃん」たちは驚いた様子もなく、笑顔で迎えてくれた。しかし逆に興味津々で、
「ゆうたちゃん、ほんとうは高校を卒業したお兄ちゃんって、ほんと?」
「う、うん。」
「わぁっ、ほんとなんだ! ねぇねぇ、どうして?」
「その……可愛い制服を着て、小学校に通う、女の子になりたかったから……そしたら、サンタさんが、お願いを聞いてくれたみたいで……」
「そうなんだー! くすくすっ、お願いがかなってよかったね、ゆうたちゃん!」
「いっしょに小学校生活、楽しもうね!」
「う……うん!」
1年生の教室に通され、席に着く。クラスメイトやその保護者に注目されて、入学式が始まる前に、担任の先生から説明が行われた。
「杉山雄太くんは、本当は18歳の男の子なの。でも、どうしても女子小学校に入学したいっていう強い希望があったから、特別に1年生として通うことになったんです。みんな、仲良くしてちょうだいね」
「はーい!」
「杉山くんからも、自己紹介してくれる?」
「は、はい……」
雄太は前に出て、恥ずかしさをこらえてこれまでのことを説明する。
「あ、あたしは、杉山、雄太、18歳、です。中学のころから、可愛い女の子の服が好きで、憧れてて、でも着られる服もないし、恥ずかしいしと思って、内緒にしてました。でも、おととし――高校2年の時のクリスマスに、サンタさんから女児服をプレゼントされたのがきっかけで、学校以外では女の子の服を着て、女の子として、生活するようになりました。でも、学校でもすぐにばれて、3年生からは、女子制服を着て、通学してました」
教室のあちこちから驚きの声が上がる。しかし話を遮ろうとする人はおらず、雄太はそのまま説明を続ける。
「女の子のドレスや、スーツや、水着や、浴衣を着て――で、去年のクリスマスに、もう来ないと思ってたのに、この学校の、入学案内が届いたんです。近所に住んでることもあって、前からここの学校の制服は可愛いなって思ってて――ダメでも仕方ないと思って、入学希望を出したら、入れることに決まりました。見ての通り、体もみんなより大きくて、しかも、男ですけど――精いっぱい、女の子になりたいと思ってます。だから、仲良くしてくれると、嬉しいです」
雄太はそう言って、ペコリとお辞儀する。
しばし、教室には困惑したような空気が漂っていたが――
「うん! よろしくね、ゆうたちゃん!」
「ゆうたちゃん、仲良くしましょ!」
次々と上がる少女たちの声に、保護者達も緊張を解いて微笑んだ。
温かく受け入れてくれたクラスメイト達に、雄太は目じりをこすりながら、
「みんな、ありがとう! これからよろしくね!」
満面の笑みで、そう答えたのだった。
(続く?)