SS「プレゼント」 (Pixiv Fanbox)
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(1)
この街には「サンタクロース」がいる。
いったいいかなる手段・理由にてか、18歳未満の少年少女の願いを知り、12月24日深夜――クリスマスの夜に、その通りのプレゼントを与えてくれるのである。
――杉山雄太、17歳。
最後のクリスマスプレゼントとして、彼の枕元に置かれていたのは――
「何でこんなものが、プレゼントに――絶対なんかの間違いだって、これ!!」
少年は「プレゼント」を前に、声高に主張した。
彼の前に置かれていたのは、何十着もの衣服。どれもこれもピンクや赤系のブラウス、ワンピース、ジャンパースカートにドレス――それもブランド物の女児服で、雄太が着られる170サイズのものばかり。下着類も女児用のインゴムショーツとキャミソール、イチゴやリボンをモチーフにした可愛らしいソックスなどで、つまりはすべて、まるで小学校低学年の女児が着るような衣類ばかりだったのである。
朝起きて枕元に衣類の山を発見して、雄太は愕然と凍りつき――なかなか降りてこない息子を不審に思った母親がやってきて、先述の叫びに至るというわけである。
「でも、雄太。サンタさんは、雄太が欲しいものを配ってくれたんじゃないの?」
「お、俺は別に、こんな服なんて欲しくは――」
「本当かしら。そういえば最近、テレビで可愛い女の子が映るとじっと見てることが多いけど――もしかして、あの子たちが着てる可愛い服に、興味があったりしたの?」
「そんなことは――」
なおも反駁しようとする少年の前で、母親がふと、彼のベッド下から飛び出しているものを発見する。
「あら、これって――」
「あ――」
拾い上げたその漫画のタイトルは「女児少年」。高校生の少年が、何らかの事情で女子小学生になってしまい、少女たちとドタバタを繰り広げるという内容の、青年向けラブコメコミックである。
「女子小学生になってしまったオレは、家族や女の子たちの着せ替え人形に――ふふっ、やっぱりこういうの、興味あったんじゃない」
「うう、それは、その――」
「うんうん、わかったわ。雄太、本当は女装したいけど、自分からするのはちょっと恥ずかしくてできないとか、そういう感じなんでしょ?」
「べ、別に、そういうわけじゃなくて……!」
「そうかしら。まぁ、いいわ」
母親は不意に口調を改めて、
「なら、お母さんが命令します。今後は誕生日プレゼントに送られてきたこの服を着て、生活するように。学校に行くときは仕方ないけど、それ以外の時はずっと、女の子の服と下着しか着ることを許しません。季節ごとに必要になったら買い足してあげるけど、ぜんぶお母さんが選んだ女児服だけ」
「そ、そんなっ――!?」
「サンタさんにプレゼントをもらったんだから、これくらいとうぜんでしょ? さ、早く着替えて――今までの服は制服以外ぜんぶ処分するから、あとで出しなさい」
「ううっ、は、はぁい……」
有無を言わさぬ母親の口調に逆らえず、雄太は渋々服を脱ぎ始めた。
それからというもの、雄太は完全に女児女装生活を送ることになった。
朝起きたらブラウスやスカートなどの上品な女児服に着替え、口調や振る舞いも女の子のようにさせられる。髪形も近所の美容室でおかっぱ頭にしてもらい、リボンのついたヘアゴムで左右をくくってツインテールに。すぐに近所でも話題になり、中学時代の同級生女子が訪ねてくるほどだった。彼女たちの持ってきた「お土産」――おさがりの女児服や女子制服、ランドセルなどの学童用品をもらったせいで、さらに女児生活は充実していった。部屋すらも改装され、ピンクの壁紙とカーペット、家具も女の子らしいデザインのものに置き換わり、ベッドやカーテンはフリルとレースがたっぷりという、小学校低学年の女の子なら「お姫様のお部屋みたい!」と喜びそうなものになっていた。
学校も、当初は制服で通っていたものの髪型ですぐに女装がバレ、女子制服で通学するようになってしまった。男子制服すらも処分され、雄太はもはや一枚もズボンを持っていないありさまだった。
春には女児スーツと、女児ドレス。
夏には女児浴衣ドレスと、女児水着。
秋には髪も伸びて、いっそう女の子らしいおかっぱ頭に。
当初は恥ずかしいばかりだった雄太もだいぶ落ち着き、今では自分から積極的に女児女装するようになっていた。男子高校生でありながら女児服で生活するのが恥ずかしいのは、今なお変わらなかったが。
そして迎えた、クリスマスの夜。
「そういえば、ぜんぶあれから始まったんだよね――」
去年のクリスマスに「プレゼント」された大量の女児服を思い出し、女児ネグリジェ姿の雄太はベッドの中で小さく笑った。
「まぁ、今年は18だから、もうプレゼントはないんだろうけど――でも、もし叶うなら――」
欲しいものを頭に思い浮かべつつ、彼は眠りに落ちていった。
(続く)