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連載小説「女装強要妄想ノート」(8) (Pixiv Fanbox)

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3月第2週「ホワイトデーにメイド服を着せられてチョコを手作りする」   (3) 「なーんて、ね。ちゃんと、材料も器具も用意してあるわ」 「ほっ……もう、脅かすなよ……」 「くすくすっ、ほんとはちょっと、期待してたくせに。ほんとはそうしてあげてもよかったんだけど、最初はじっくりとってママにも言われてるからね。今回は、外出はなし」 「それってつまり、じっくりいたぶってるってことじゃないか……」  ぼやく真弓だったが、本当にこの格好で材料から買って来いと言われるよりはマシだ。 「材料はキッチンにママが用意してくれてると思うから、行ってらっしゃーい」 「はいはい」  軽く返事をして部屋を出ようとする真弓だったが、 「ちょっと、真弓ちゃん。メイドさんなんだから、お嬢様に対してその口の利き方はいかがなものかしら?」 「うっ……なにも、そこまでしなくても……」 「……………………」 「か、かしこまりました、お嬢様。チョコレートを、ご用意差し上げます」 「よろしい。それじゃ、お願いね。私の可愛いメイドちゃん」  楽しそうな「お嬢様」の声に送り出される真弓であった。   *  リビングに降りてゆくと、母親は驚いた様子もなくメイド服姿の息子を出迎えた。 「ふふっ、すっかり可愛らしいメイドさんになっちゃったわね」 「これはその、亜弓に言われて、仕方なく……」  メイド服の裾を押さえて、言い訳がましく言う真弓。そのしぐさが余計に女の子っぽくなってしまっている自覚はあり、いっそう胸がくすぐられたが、それでも短いスカートが気になって仕方ないのだ。 「それだけじゃないでしょ? 亜弓はお兄ちゃんの願いを叶えてくれてるんだから、ありがたく思わないと」 「うっ……」  痛いところを突かれて、真弓は視線を逸らす――と、その先にあるマガジンラックに、ソーイング雑誌や料理雑誌、教育学の雑誌と並んで置かれたキャンパスノートを見つけ、ますますいたたまれない思いをしてしまう。  あれこそが、いまメイド女装させられている元凶の「女装妄想ノート」である。彼が数年かけて書き込んだ「こんな風に女装させられたい」という妄想が家族にバレたせいで、先週は雛祭りの日に女児服を着せられ、今またこうして、メイド服を着せられているのだった。つまりは自業自得である。 「それより、チョコの材料は――」 「ええ。必要な材料と器具はそろえてあるし、作り方もママが教えてあげるから、安心して。溶かして金型で冷やしなおすだけだから」 「ならいいんだけど――ちなみに、金型は?」  確認したのは、ふと嫌な予感がしたからだ。亜弓の性格を考えると、金型は―― 「ふふっ、もちろんハート形よ。『お姉ちゃん』への本命チョコね」 「ああ、やっぱり……!」  チョコレートづくりそのものは、それほど難しくない。刻んだチョコレートを湯煎で溶かし、絞り器をつかって金型に入れ、冷やして固める――必要なのは丁寧な温度管理くらいのものだ。  しかし、「妹のためにメイド服を着てチョコを作っている」というシチュエーションそのものに、真弓はドキドキしっぱなしである。ちょっと動くだけでもスカートが揺れて落ち着かないのに加え、カメラを持ち出した母親が、真弓の作業風景を写真に収めてゆく。 「お姉ちゃんのためにチョコレートを作る真弓ちゃん、可愛いわよ」 こんな恥ずかしい姿を残されたくはないが、さりとて作業の手を止めるわけにはいかず、真弓はチョコづくりに専念して――  一時間後、真弓は完成したチョコを載せたお皿を持って、妹の部屋のドアをノックした。 「お、お待たせしました、お嬢様」 「くすくすっ、どうぞ入ってちょうだい、真弓ちゃん」 「し、失礼します」  ドアを開けて入ると、そこには亜弓の姿――なのだが、 「亜弓が、ドレス着てる……」 「可愛いメイドさんにお嬢様って呼んでもらってるんだもの、たまにはこういうのも、悪くないかなって思ってね」  そふぁにゆったりと腰掛ける亜弓が着ていたのは、ワインレッドのワンピースであった。金髪縦ロールのウィッグまでかぶっていて、ややきつめの顔立ちもあり今にも高笑いしそうなその様子は、 「お嬢様はお嬢様でも、悪役令嬢っぽいな……」 「ちょっと、真弓ちゃん。聞こえているわよ?」  亜弓は唇を尖らせるが、ふとその目が、真弓のスカートの前に向いて、 「あら、真弓ちゃん――どうしてそこが、膨らんでいるのかしら?」   (続く)

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