連載小説「女装強要妄想ノート」(9) (Pixiv Fanbox)
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3月第2週「ホワイトデーにメイド服を着せられてチョコを手作りする」
(4)
「これはっ……!」
真弓は慌てて、片手でスカートの前を隠す。
今までのようにただ恥ずかしいだけとは違う危機感に、全身から嫌な汗が噴き出すような感覚に襲われる。
妹はくすくすと――外見通りの悪役令嬢のように笑いつつ、長い脚を振り上げるようにして組んだ。
「いけないわね、真弓ちゃん。わたくしに仕えるメイドでありながら――もしかして、淫らな気持ちになってしまっていたのかしら?」
「そ、そんなことは……!」
「なら、証立ててもらわないとね。チョコをそのテーブルにおいて、スカートをめくって、下着を見せてごらんなさい」
「スカートを……!?」
今までのような女装でのごっこ遊びでは済まない流れに、真弓は青ざめる。
亜弓も小学6年生――来月には中学生である。兄の体に起きている事態について、まるきり無知とは思えない。兄としては、毅然とした態度で断るべき場面だ。
しかし――
「さぁ、早くなさい。わたくしの命令よ、真弓ちゃん」
「は、はい……かしこまりました、お嬢様……」
メイドとお嬢様――そんなロールプレイが、兄としての立場を圧倒してしまう。
妹の前のテーブルにチョコレートの皿を置いて、自分のスカートを、震える指でつまむ。
(何してるんだ、オレは……)
(妹に命令されて、スカートをめくるなんて……そんなことをしたら……!)
ゆっくりと、垂れ幕が上がるようにして絶対領域が広がり、真っ白な太ももが露わになってゆく。そしてついには、太ももの間にさらに真っ白な逆三角形が覗いて――
「くすっ、くすくすくすくすっ……」
自らが与えた、おさがりの女児用ショーツ。それを着用した兄の下半身の、少女には決して存在しない膨らみが立ち上がっているのを発見して、亜弓はこらえきれぬように忍び笑いを漏らした。
「あらあら、いけないわ、真弓ちゃん。せっかくかわいいメイド服を着てるのに、スカートの中でそんなに男の子の場所を膨らませているなんて、お行儀が悪いわよ」
「うっ……も、申し訳ありません、お嬢様……!」
こみあげる恥ずかしさと情けなさを、メイドとしてのロールプレイに徹することで糊塗する真弓。それが悪手であると判っていながらも、逃げることも、逆らうことも許されない絶対的な「お嬢様」の威厳の前には、従わざるを得ない。
亜弓は「メイド」の答えに満足げに目を細め、
「もうちょっとこっちにいらっしゃい、真弓ちゃん。もうちょっと――そう」
命じられるがまま、真弓はスカートをめくりあげた状態で、手を伸ばせば届きそうなほどの距離に近づく。
(見られてる、見られてるっ……!)
視線そのものが物理的な作用を持っているかのように、露わになったショーツのふくらみを撫でられ、つつかれている錯覚があった。内側のモノはいっそうビクビクと痙攣し、今すぐにでも手で押さえたくなるのを必死でこらえあなければならなかった。
「正直に答えなさい。真弓ちゃんはメイド服を着て、淫らな気分になっているのよね?」
「は、はい……そのとおりです……」
「ふぅん……もしかしてあのノートも、そういうことだったのかしら?」
「っ……! は、はい……!」
もはや隠すことはできないと、真弓は唇を噛んで認めた。
「女装妄想ノート」。あれは単に女装させられるシチュエーションを書き留めて楽しんでいるだけではなく、彼自身が自慰行為をするときのオカズでもあったのだ。
――そもそも、男子高校生としては異例なほど小柄で女顔な彼が、これまで周囲から女装を勧められたり、求められなかったわけがない。
にもかかわらず、16年間そうした要求をはねのけ、頑なに女装を拒んできた理由のひとつは、女装したら昂奮して勃起してしまうからであった。
体格や外見通り、彼の男性器は包茎短小で、勃起してもそれほど目立つ大きさではない。しかしそれでも、女装で勃起しているのが見つかったら変態と蔑まれることは免れない。
そう――ちょうど、今のように。
「あらあら、真弓ちゃんが女装して昂奮するような変態だったなんて、がっかりですわ。本当はわたくしのお兄様、男子高校生でありながら、メイド服を着て妹にご奉仕するというシチュエーションに、淫らがましい心を起こすだなんて」
さも嘆かわしいとばかりに金髪縦ロールのウィッグをかぶった頭を振り、芝居がかった口調で言う亜弓。
真弓が何も言い返せずにいると、彼女はニヤリと笑って、組んだ脚の上になっているほうを持ち上げると、
「そんな変態メイドの真弓ちゃんには――おしおきが、必要ですわね?」
その爪先を伸ばして、兄のショーツのふくらみに触れた。
(続く)