連載小説「女装強要妄想ノート」(7) (Pixiv Fanbox)
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3月第2週「ホワイトデーにメイド服を着せられてチョコを手作りする」
(2)
「姉」にそう言われて、断れる真弓ではなく、
「は、はい……」
従順な「妹」として受け取って、自分の部屋に戻って着替え始めた。
まずは部屋着を脱ぎ、下着も脱いで裸になると、クローゼットの引き出しから、10日以上封印されたままだった女児用下着を取り出す。フロントにピンクのリボンがついたインゴムショーツを穿いて、キャミソールを着ると、早くも胸が痛いほどに高鳴ってきた。
「ううっ、下着だけでもこんな恥ずかしいのに、メイド服で、しかもチョコを作れだなんて、亜弓のやつ、横暴すぎる……」
ぼやきつつも、メイド服をパッケージから取り出す。
黒の丸襟ノースリーブワンピースに、白いヘッドレス風カチューシャと、二の腕まで隠れるグローブ、前掛けのみのエプロン、白黒ボーダーのニーソックス。モノトーンではあるが、ワンピースの襟や前立ての左右、エプロンの縁にフリルがあしらわれているため、なかなか可愛らしいデザインとなっている。サイズはSなので、140センチちょっとの真弓でも問題なく着られそうだ。
改めてベッドの上に並べて眺めると、緊張がこみあげてくる。
「いまからこれを、オレが、着る――」
緊張に喉を鳴らし、まずワンピースから取り掛かる。
ボタンを外して足を通し、袖を通してボタンを留めなおすと、
「量販店の安いコスプレって感じで、これはこれで、恥ずかしいっ……!」
前回の女児服に比べると、作りはよくない。生地はざらざらしているし、縫製も甘いところが目立つ。だからこそ、触れた部分をくすぐられているような肌触りの悪さが、少年の心を辱めた。
続いて、少し悩んだのちニーソックスを履く。こちらは比較的柔らかく、普通の穿き心地だ。さらにグローブもはめると、肌が露出しているのは首から上と、肩、太もものみとなるが――逆に出ているその部分が、気になって仕方がない。特に「絶対領域」は、ニーソックスのしめつけとスカートのざらつきのコンボだ。
ヘッドレス風のカチューシャを頭につけ、エプロンのリボンを腰の後ろで結んでいた真弓だったが、
「そういえば、この格好でチョコレートを作れって言われたけど……まさか、材料から買って来いなんて言わないよな……?」
ふとした想像に、赤みがさしていた顔から血の気が引く。
今までずっと女装させられる妄想をしてきた真弓であったが、実際にしたのは雛祭りの日が初めてで、その一回だけ。ここでいきなり、メイド服のまま製菓材料を買って来るとなると、たくさんの人に女装した姿を見られることに――
「うう、その時は、せめて着替えさせてもらわないと……」
ともあれ、メイド服は着終えた――となれば、
「や、やっぱり、身だしなみをチェックしないと、ダメだよな……」
言い訳するようにつぶやいて、部屋の隅に目をやる。
モノトーンを基調にした男子の部屋にあってやや異質な、優美なレリーフに縁どられた楕円形の姿見。いささか少女趣味似すぎるそれは、前回の女装の後、「着た時に自分で見たいでしょ」と母親にプレゼントされていたものだ。
「いままで一度も使ってなかったけど、まさかこんなすぐに、使うことになるなんて……」
バクバクと高鳴る心臓を押さえるように胸に手を当てて、大きく息を吸い込んで――真弓は清水の舞台から飛び込むように、鏡の前へと足を踏み出した。
覗き込んだ鏡面に映り込んだのは、メイド服を着た自分の姿。とうぜん胸はないが、それ以外は問題なく美少女メイドだ。とても男子高校生には見えない。
「はぁ、何で似合っちゃうんだよ……これで似合わなかったら、逆に女装させられることなんてなかっただろうに……」
後ろで結んでいた髪もほどいて、背中全体に下ろす。艶やかな黒髪が大きく広がって、
「ほんとに、女の子みたい――っていうか、メイド服が安っぽいせいで、なんだかいかがわしい感じにも見えてくる……」
仮装としてのコスプレではなく、性行為におけるプレイとしてのコスチュームプレイを想起して、真弓が頬を朱に染めていると、
「あははっ、兄ちゃん、鏡に見とれてどうしたの? 自分の可愛さに惚れちゃった?」
「あ、亜弓、いつの間に……!」
音もなくドアを開けて潜入していた妹に、真弓はいっそう赤くなる。
「へぇ、思ったとおり、似合ってるじゃん。くすくすっ、あたしが着るよりよっぽど女の子らしいんじゃないの?」
「それは……うん……」
「ちょっと、そこは否定してよ。……ま、いいわ。それじゃ早速、チョコづくりを始めてちょうだいね。メイドの真弓ちゃん♪」
「チョコづくりって、まさか材料からこの格好で買って来いなんて言わないよな?」
「んー? その言い方、なーんか期待してるように聞こえるんだけど?」
「そ、そんなこと……!」
意地悪く笑ってのぞき込む妹に、真弓の背筋を寒いものが伝った。
(続く)