短編「妹の花嫁になった日」(2) (Pixiv Fanbox)
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(2)
家族会議は、それほど長くはかからなかった。
30分とたたず自室に戻ってきた真里は、勉強机のチェアに腰を下ろし、
「ママは、あたしの好きにしろってさ。あたしがどんな罰を与えようと、いっさい干渉しないって。だから――判ってるよね?」
にんまりと笑って兄を見下ろし、そう言った。
真佑は妹の部屋の真ん中の床で、全裸のまま土下座していた。
脱衣所で真里が悲鳴を上げた後、飛んできた母親が事態を把握してからすぐに家族会議が開かれることになり――そのあいだ裸の真佑は服を着ることも許されず、妹から、彼女の部屋で土下座したまま待っているように命じられたのだった。
今まで部屋に入るどころか、ノックするだけで大騒ぎしていた妹にしては妙に思ったものの、口にして真意を確かめるような度胸はない。お白州に引き据えられた罪人のごとく、妹のご機嫌を損ねないようにするのみだ。
いくらカーペットの上とはいえ、一糸まとわぬ裸で土下座し続けるのは男子高校生にとって耐えがたい屈辱である。しかし、こと今回の件に関しては、彼が全面的に悪いのだ。両親も不介入となると、彼は妹に生殺与奪の一切を握られていると言ってもいい。
「ご、ごめん、真里……ほんの出来心で……だから、許して……」
「そんなの、信じられるわけないでしょ。ここ最近、妙にお風呂長かったんだし」
「う……」
「正直に答えて。あたしの下着の匂いを嗅いで、オナニーしてたのね?」
「はい……」
「どのくらい前からやってたの?」
「い、1ケ月、前くらいから……」
「ふぅん。あたしの下着、そんなにいい匂いする?」
「それは――その、よくわからないけど、嗅いでると、昂奮するから……」
口にすると、自分の変態さ加減を実感する。奥歯をかみしめる真佑に、妹はさらに追い打ちをかける。
「アハハッ、兄貴ってば、ヘンタイ~。今までは優等生の皮をかぶってたけど、本性は妹の下着でハァハァするようなヘンタイだったんだ。ククッ、まるでそのチンチンと一緒ね」
「うっ……」
「でも、兄貴がオナニーしたパンツなんて、気持ち悪くてもう穿けないなー。ここ1ケ月ってことは、さいきん穿いたのぜんぶ処分しないとダメね。あーあ、どれもお気に入りだったんだけどなー」
わざとらしい口調だったが、真佑は返す言葉もなくうなだれる――と言ってもさっきから額を床につけたままなのだが。その耳に、
「そうね。でももったいないし、そんなに欲しいっていうんなら、あたしの下着、兄貴にあげる」
「えっ……?」
信じがたい言葉が聞こえた次の瞬間、頭の上に、何かが載った。
踏まれたわけではない。もっと軽い、例えば両手くらいの大きさの布の塊――
思わずハッと顔を上げると、それは純白のインゴムショーツであった。フロントにピンクのリボンがついていて、バックにはポップな雲形の枠に、マカロンやケーキ、ドーナツなどのスイーツがプリントされている。
間違いない。妹が先ほど入浴前に脱ぎ、彼が匂いを嗅いでオナニーしている現場を見つかった、あの下着だった。
下着だけではない。彼女が脱衣所で脱いだはずの服もまた、なぜか彼女の足元に積まれている。
驚いて見上げた真佑に対して、妹はククッと喉の奥で笑い、
「好きなんでしょ? 脱衣所でこっそりあたしのパンツを取り出して、犬みたいにクンクン嗅いではチンチンしごいちゃうくらい。だったらあげるって言ったの」
「う……ご、ごめん、なさい……」
「謝れなんて言ってないったら。遠慮はいらないから、あたしのパンツで好きなことをしてみてよ。さっきみたいに嗅ぐ? 穿く? それとも顔にかぶってみる? アハハッ、変態兄貴にはお似合いね」
「そ、そんなことはっ……!」
「穿きなさい」
ふいに真里は、驕慢な姫君が従者に命じるがごとき命令口調で言った。
「立ち上がって、その下着を穿いて見せなさい。話はそれからよ」
(続く)