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むちむち偏執女後編 進捗.1 (Pixiv Fanbox)

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※注意

この作品は『むちむち偏執女に痴漢"させられ"たりえっち誘惑で性に溺れ"させられ"たり罠に"嵌められ"て人生を絡め取られる話・前』(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15301763)の続きとなります。

先にこちらを読むことを勧めます。

『うあ゛あ゛っ……!!!やめてっ……!!!やだっ!!!やだぁっ!!!』

──ベッドの上で、男に押さえつけられた女が、叫ぶ。

女は、ひどく怯えながらも、どこかタガが外れたように、目を見開いて叫びながら、その凶行を一身に受けていた。

いわゆる──レイプ。

まだ、直接的に性行為が始まっている訳ではないが、男の目的など、その目つきと息づかいだけで、誰だって理解できる。

そんな、獣のような、荒っぽく浅ましい手つき。

男は確かに、強姦魔そのものだった。

その女は、折れそうなほど細い胴をがっしりと掴まれてはいるが、腕や脚を、ガムテープや手錠などの何かで、拘束されているという訳ではない。

抵抗しようと思えば、蹴り上げるなり押しのけるなりして、男から逃げ出そうと画策することはできたのだろう。

しかし、その女の、青ざめながら震える姿を見るに、きっと体が竦んで動けないのだろうと、映像を見る限りでは推測できる。

──無理もない。

極端に自己責任論を持ち出すような輩や、共感能力の一切ない者でもなければ、誰もがそう思うだろう。

女は、見るからに気弱そうで、腕も細く、いかにも非力だ。

部屋に閉じこもって本を読むのが趣味で、体育の通知表など生まれてこの方1しか取ったことがない──というのは流石に偏見ではあるが、そういった『いかにも』な風貌なのは間違いない。

そんな、虫も殺さないような女性が、いきなり暴漢に襲われてしまっては、きっと怯えて助けを呼ぶのが精一杯か──もしくは、あまりの恐怖に喉が締まり、声も出せずに口をぱくぱくと開けることしか出来ない可能性も、十分にありえる。

つまり、この映像に──矛盾はない。

女が抵抗しないという違和感に、理由ならいくらでも述べられる。

『うぐっ……!ひぐっ……!やめてっ……!なんでっ……!』

男は、そんな女に対して、一切の慈悲を与えない。

むしろ、とうとう恐怖が最高潮に達し、すすり泣いてしまった姿すら、興奮の材料にしているのだろうか。

手つきはますます乱暴になり、獣のように荒立てた呼吸が、更に荒らげられてゆく。

男には、一つ一つボタンを外して服を脱がすほどの余裕も、あるいはそんな理性もないのだろう。

彼女の着ているブラウスを、ぶちぶちと胸のボタンごと引きちぎり──たわわな、と表現するのも言葉足らずなほどの、頭ほどもある爆乳が、スイカ程度なら包めるくらいの、極めて大きなブラジャーごと露出させられた。

そう、女は──ひどく淫猥な、肉付きの良すぎる体つきをしていた。

言ってしまえば、こういった強姦被害に遭うことは、この子の人生なら一度や二度では済まされないのではないかというほどに。

男好きのする、いや、しすぎるほどの、堪らないむっちり感。

きっと、この子がいくら幸運だったとしても、少なくとも痴漢は受けたことがあるだろうと、そう断言できるほどに。

女の肉体は、魔性そのものだった。

──もしかすると、この女はその為に雇われた女優で、この映像はいわゆる本物っぽく見せたAVなのかもしれない。

女の身体を見て、ふとそう思う。

今しがた聞いた彼女の悲鳴は、誰がどう考えたって、心からの悲鳴だ。

しかし、その滅多なことでは見られない、どたぷんと実った乳尻太ももを見ると、それすら疑わしく感じた。

それも──制服を着ているほどの、発展途上の熟れきっていない身体でこれ、とは。

まさか、どうしたって、信じることはできない。あり得ない。

それほどに現実離れした、途方もない性的魅力を詰め込んだ、肉体。

そして、ぞっとするほど蠱惑的な、美貌。

若々しくも影があり、どこか未亡人じみた雰囲気を感じさせる、妖艶な雰囲気は、まさに雄の劣情を煽ってやまないものだ。

その女は、幸か不幸か、美しすぎたのだ。

それ故に、まさかこんな淫魔のような女性が、ただの学生という立場に甘んじているとは思えなかった。

だって、こんなに顔立ちの整った美女ならば、学生アイドルや女優──いや、もっと、雄の本能に訴えかけるような、セクシーなグラビア女優や、AV女優として有名になっているはずだ。

もし本人が引っ込み思案で、有名になることを望まなくたって、女優になんかならなくったって。

これほどに淫靡に肥えた爆乳や豊尻を持つ女性がいたのなら、隠し撮りなどがSNSに上げられるなどして、全ての性欲盛りの男の脳裏に焼き付いただろう。

──そんな、下劣なまでのエロスを秘めた女性は、実際のところ、やはり世間には名の知られた人物だった。

そう、その女は、男なら誰もが一度はズリネタにした、爆乳美女の極上AV女優──ではなく。

極めて真面目で、当然濡れ場など一切ない純文学小説の、作家。

文学界では最高峰に権威ある賞を、最年少で獲得したというニュースで一躍話題となった、学生作家だった。

メディア曰く──美しすぎる女性作家。

そんなありふれた枕詞に偽りなく、お世辞や贔屓目抜きに美しすぎた彼女は、今やテレビでも度々取材を受ける、時の人だ。

取材は書籍の内容だけでなく、その美貌の秘訣までも聞かれたり、女優やアイドルと対談することも度々あるところから、彼女が誰の目から見ても美人であることは疑いようがなく。

そして、もちろん『美しすぎる』というのは──『全身オナホみたくぶっとくてふくよかな抱き心地してるくせにウエストは細っこくて犯し頃孕ませ頃の極上雌』を極めてオブラートに包んだだけの言い方に過ぎない。

そんな彼女への反応と言えば──もう、性欲。それに尽きる。

特に、ネット上の匿名のつぶやきなどでは、それはそれは見るに堪えない、下劣で品性のない言葉が、彼女への言及として幾つも飛び交うのが日常茶飯事だ。

その中には、あからさまに犯罪予告な、レイプ願望をむき出しにしたものもある。

彼女の物憂げな顔立ちや、ふとした時に垣間見える妖艶な仕草は、男の獣欲をむらむらと引き立たせるのだろう。

いかにも弱々しげで、その眼差しはいつも暗い色が灯っており──しかし、そのたわわに実った肉体は男を誘ってやまず。

彼女はまさに大和撫子を体現したような女性であるが、それに相反した、手をわきわきとこまねかざるを得ないような、どっぷりと肥育されたいやらしい駄肉は、庇護の対象というよりは、嗜虐の対象にしかならない。

──それは、男ならば、誰しもが理解できてしまうもの。

その雌を犯して、モノにできたならば、どれほどの悦びだろうか。

それが出来たなら、比喩でなく死んでもいい。

──故に、そんなことを思いつつ、涎を垂らして檻からごちそうを眺めるしかない獣のように、彼女に触れることができない全ての男達は、羨望と嫉妬をない交ぜにした感情を抱く。

きっと、その雌が目の前に居たのなら──できる。

あんなにむちついた雌肉をぶらさげている癖に、箸より重いものなど持とうと思ったこともなさそうな、筋肉だけは貧相な、おあつらえ向きの体躯。

目線を伏してぽそぽそと喋る、陰気なくせにやたらとむらつかせる態度。

もう、レイプしてくれと言わんばかりの容姿、そして性格に、男どもはいつでも劣情をぎらつかせているのだ。

『ん゛ん゛っ……!!!あっ、やあっ……!!!胸、やだぁ……!!!』

そんな中で、こんな映像が流出したとあれば。

もう、その男は──殺されるだろう。

誰もが手に入れたくて、しかし触れられもしないあの雌を、勝手に手込めにしたとあれば。

それも──あの最上級のデカパイを、遠慮無く手首までめり込むほどに揉みしだきながら、太ましく実った腰回りに、ぐりぐりと種付け感を堪能するように、恥骨を練り付けていたとあれば。

そんな野郎の末路なんて、想像に難くない。

しかも、正当な恋愛ですらなく、それがただの暴行によるものだとしたら。

それがトラウマになり、二度と彼女が表に出なくなったら、どうしてくれる。

俺がこっそりオナネタにしている、ただ歩くだけでぶるんぶるん揺れるデカ乳を、もう二度と見られなくなったら。

ローアングルから見た時の、とんでもない質量の重たそうな孕ませ頃デカケツが拝めなくなったら。

そんな言葉を──きっと、非力な婦女への卑劣で身勝手な暴行だと、倫理というカモフラージュに上手くくるめて、正当な非難という形でぶつけられる。

「……気が弱く、膂力にも乏しい、襲っても反撃されそうにない、か弱い婦女を狙っての暴行」

そう──丁度ぽそりと、目の前の女がつぶやいたように。

声を辿り、そちらに少し目線を上げる。

声質は、全く同じ。

つんざくような悲鳴の声の持ち主と、全く同じアザと揺らぎの、しかし静かに落ち着いた、ぽそりとした呟き。

白魚のような、白細くて長い指が、かちりとスマートフォンの電源ボタンを押し、液晶に映された映像を消す。

それと同時に──目の前の女が消え、自分の間抜けな顔が、鏡のように真っ暗な画面に映った。

「情状酌量の余地もない、劣悪で悪辣な、身勝手極まりない犯罪ですね……。そんな凶悪犯罪者なんて、年に一人と現れるかどうか……」

スマートフォンを、静かに腰のポケットにしまう、やたらと婀娜めいた手。

手慰みならぬ、足慰みとでも言うべきか、押し着く立ち姿勢を探して、手持ち無沙汰に腰をくねらせ、たふたふとカーペットの上を叩き、ふらふらと彷徨う爪先。

その女は、一挙一頭足まで、妙に色っぽく艶めいて、色香に満ちている。

──間違いなく、たった今まで、スマホの液晶に映っていた女。

僕の恋人、その人そのものだった。

「……ねえ?こんな人間が、まさか存在するなんて、恐ろしくって仕方がない。その下手人を見つけたなら、今にでも捕まえて、とっちめてやらなくちゃ。

……貴方も、そう思いますよね?」

女は、にこにこと笑っていた。

今の今まで、トラウマになって然るべきの、二度と見たくもないはずの、汚らわしく痛ましい映像を、自ら流していたと言うのに。

楽しくて、嬉しくて、仕方がない。

そんな風に、笑っていたのだ。

「ふふっ……♡ああ、でも……こうして見ると……。思ったより上手く、演じられていますね……。やるものでしょう……?これでも子供の頃は、親の伝手で、子役として活躍してた事もあるんですよ……♡」

ぞくりと、背筋が震える。

──得体が知れない。その一言に尽きる。

その表情の奥に、その行為の裏に、どんな感情があるか、どんな意図があるのか、全く読めない。読ませてくれない。

ただ──彼女は、何かを企んでいる。

それでいて、僕を、狂気的なまでに愛している。

それだけが確かで、その行為に悪意などないからこそ、浮き彫りになった異常性が、堪らなく恐ろしかった。

「ね、レイプ魔さん……♡この時は、ほんとに気持ちよさそうでしたねぇ……♡征服感が堪らないという腰使い……♡こんな幸せな記憶、きっと忘れてないですよねぇ……♡」

──言うまでも無く、この映像には、見覚えがあった。

どう動いたか、どう思っていたか、どのタイミングで射精したか、はっきりと記憶がある。

言うまでも無く、この映像の中の男は──僕、だった。

いつか彼女にそそのかされて行った、互いに合意のレイプごっこ。

恋人同士の、いわゆるイメージプレイ。

それは、お互いに納得した上で行った、誰も本当に傷ついてなどいない行為だが──事情を知らない他人から見れば、至極当然に、これ以上無く下劣な犯罪行為にしか見えない。

それを、いつの間にか、どのようにしたかは分からないが、こうして記録に収めていたのだ。

いつの間にか、僕に気づかれることもない隙に、こんなにはっきりと見えるアングルで。

そう、多分──こんなに顔がはっきり見える、見下ろす視点の映像なら、ベッド横の本棚の上段の、あの辺りに。

隠し撮り用の、小さいカメラか何かを設置していたのか、あるいはもっと想像もつかない、別の方法か。

「……探してみても、いいですよ……♡この部屋中、カメラが設置できるような、怪しい場所なんてたくさんありますから……♡もしかすると、見つかったら私に不利な、隠しカメラの痕跡なんかが、残ってるかもしれませんし……♡」

彼女は、本棚を見る視線を遮るように、回り込んで正面に立つ。

もしかすると、そこに都合の悪い何かがあるのか──あるいは、僕の視線が自分から逸れるのが、我慢ならないほど嫌なのか。

おそらく、後者なのだろうとは、思う。

彼女がまさか、痕跡を残すなんて下手な真似をするとは思えない。

「ふふ、何だか、子供の頃に遊んだ、宝探しのごっこ遊びみたいで、楽しいですね……♡」

──何より、彼女の、その態度。

あんな風に、無邪気に笑っている彼女が、今では何よりも底知れない。

こんな異常な、脅迫じみた状況にあって、あれほど楽しそうに笑える者が、この世にどれだけ存在するだろうか。

醜悪に口端を吊り上げるでも、勝ち誇って高笑いするでもなく、ただ童女のように、にこにこと。

ままごとで遊んでいる時のような、リラックスした笑顔で、恐怖する僕を、ただ眺めている。

やはり彼女は、人間じゃない。

もっと邪悪で、かつ純粋に、人を堕落の底に導くのが何よりの本能として植え付けられた、淫魔。

淫らで、美しく、そして狡猾に。

── 一欠片の慈悲も、一切のミスもなく、魂まで、犯す。

「……うふふ♡とはいえ、そんな白けるような失敗は、まさか致しておりませんが……♡」

ずい、と。

得体の知れない笑みを浮かべた、尋常ならざる美しさと淫らさのかんばせが、近づく。

僕の思考にすら介入して、先回りして答えるかのように。

──綺麗だ。

自分が置かれている立場も忘れて、暢気にそんな事を考えてしまう程度には、彼女の顔は僕を惹きつける。

あの居酒屋の、悪質なサークルの飲みの席から助けた時から、一目惚れを隠せないほど美しかった彼女だが──最近は、輪をかけて綺麗になっている。

きっと、今このまま腹を裂かれて、命を奪われても、気がつかないくらいに。

「ねえ……レイプ魔さん♡どうしたいです……?この映像……♡」

腰を曲げ、上目遣いにこちらを見やる、暗い双眸。

乞うような媚びるような、傾国の毒婦のごとき目線に、くらりと目眩を起こす。

その映像は、僕を糾弾するための、正しい証拠ではない。

それは、お互い合意で行われた、ただのごっこ遊びであり、彼女も──こればかりは、彼女の心の中を読まなければ分からないので、断言はできないが──嫌がるどころか愉しんでいた。

よって、このビデオの中で行われた行為には、何ら違法性はなく、倫理的にも責められるべきものは──レイプじみた行為を、迫真の演技混じりに行いつつ、その女性を好き勝手に犯し、あまつさえハメ撮りまで保存しているという事実は置いておいて──好き合った男女が勝手に行っていることだから、胸を張って無いと言える。

そう、この映像には、実のところ、何の違法性もない。

当然それは、彼女も承知しているだろう。

何故なら、このプレイを提案したのは、彼女なのだから。

「……無駄ですよ?♡風評って、事の正誤に関わらず、常に纏わり続けるんです……♡貴方が私から逃げて、一人で生きようとするなら、尚更……♡」

白く細く、しなやかな指が、頬に絡む。

それだけで、背筋が粟立つほどの、深い官能を覚えた。

──凄まれた、訳ではない。

けれど、彼女に顔を寄せられて、僕は思わず後ずさった。

彼女の瞳は、どこまでも揺らがない、ひたすらの黒だ。

自分の身が滅びようと、あるいは焼かれようと、全て、覚悟を決めている、そんな色。

彼女が語った内容は、そっくりそのまま、彼女にも当てはまる。

いや、僕に犯されたと嘘をつくなら、尚更彼女には都合が悪くなるだろう。

順当にいけば、檻の中に入ることになるほど。

「ええ、そう……♡これは何も、貴方を傷つけるためでも、脅すためでもなく……♡ただ、首輪をつけるために、撮っておいたに過ぎないんです……♡私にも貴方にも繋がった、錠……♡ただ、それだけなんです……♡」

──だって、これを流されたら、貴方はどうしても、私の目の前に姿を現さなければならないでしょう?

恍惚とそう語る彼女の、なんと美しいことか。

確かに、それが世間に出回れば、様々なものが僕の居場所を探るだろう。

そして、その内容がまるっきり欺瞞であり、僕には罪がないと看破されたとして、それを証明するためには、僕が出てこなければならない。

彼女の前に、姿を晒さなければ、ならない。

その彼女の計画は、杜撰とも言えないが、周到とも言うことはできない。

根底には、死なば諸共という考えがあり、自己の保身など一欠片も考えていないからだ。

どちらも死ぬか、どちらも死なないか。

僕だけを追い詰めて、自分だけは助かるという、完全犯罪めいた計画性は、ここにはありはしない。

──いや、むしろ、それこそが、彼女の望みなのだろうか。

破滅する時は、二人一緒がいい。

そんな事を考えているかは、僕には知ることはできないが──彼女なら、そう言う気がしてしまう。

「……ふふっ♡」

ただ、微笑む。

豊満に熟れた乳房ごと、自らの身体を掻き抱いて、法悦に満ちた表情で。

何も、言わない。

きっと、僕が何を考えているか、何を疑っているか、何を推測して、何に恐怖しているかなんて、知り尽くしているはずなのに。

彼女はただ、紅い唇を艶めかせ、笑っているだけだ。

──彼女は、淫魔だ。

原典通りの、人間を拐かして、腑抜けにしたまま、夢心地のままに全てを奪い去る、悪辣な淫魔。

何故ならば──客観的に見て、僕にそんなことを言う権利など、ほんの一欠片も無いことが、何よりの証拠。

誰が見たって、叩きのめした後に死ぬまで檻に入れておくべき極悪人は僕で、男に土下座させて、財産全て、人権全てを捧げられて償われるべき、同情を招く悲運な被害者は、彼女だ。

そう──僕と彼女以外の、事情を知らない、部外者にとっては。

その雰囲気、その容姿、その演技。

それら全てが、悪魔そのものなのだ。

「……先程も言ったとおり、別に、脅したい訳ではないんです……。だから、もし、もしも、貴方がそれを望むなら。この映像は、私が私的に愉しむためだけのものにしておきますよ……?」

──なに、を……。

やはり、脅しだ。ハニートラップだ。

僕のとても大事な何かを──それが何かは分からないが──奪おうと、している。

彼女の言葉に反して、僕は直感的に、そう思った。

がんがんと警鐘を鳴らす脳内と、冷や汗をどばりと出す汗腺。

それに反して、目線ばかりは、骨抜きにされたように見惚れてしまう。

単純極まりない僕の心は、先程からずっと、矛盾しっぱなしだ。

女は、動じない。

こちらが焦り、ふらりと仰け反りながらよろめいても、その分の距離を詰めて、じっと目の奥をのぞき込む。

目線を外すことさえ、させてはくれない。

目の前が、ちかちかと白む。

呼吸は荒く、しかしひどく浅く、酸素の循環すらもまともに行えない有様。

心臓が張り裂けそうなほど痛く、人食いの化け物を目の前にしたが如く恐ろしく、ぐずる幼児のような気分になって──思わず、最愛の恋人に抱きついて、逃避しようとしてしまう。

恐怖の源は、そこなのに。

女は、足腰が砕け、地べたにへたりこむ僕を、眺めていた。

ただ、じっと、じいっと、眺めていた。

「…………♡♡♡」

女は、倒れ込むように腰を落とした僕に、視線を追従させるように、しゃがみ込んだ。

お行儀の良い、膝座り。

良家のお嬢様が、背の低い草花を慈しむかのような、そんな姿勢と態度は、全く今の状況とかみ合っていない。

閉め切った窓とカーテン、ライトも付けない薄暗い室内、こもった性臭、退廃的な空気。

時が止まったかのように、音も光もないこの部屋に、ただ彼女と僕の呼吸の音だけが響く。

方や激しく、しかし今にも止まってしまいそうな、不安定な浅い息。

方や静かな、しかし激しい興奮を確かに秘めた、一定の周期で繰り返す深呼吸。

彼女は、僕の恐怖する様子を、愉しんでいる。

それはそれは嬉しそうに、可愛らしい猫でも見るかのように。

これが、もしも目の前の少女の復讐劇なら、理解できる。

むしろ、そういった確かな悪意があるのなら、僕はここまで取り乱してはいなかっただろう。

しかし──彼女は、深く深く、僕を愛していた。

自惚れや勘違いではなく、確かに、確実に。

何故なら──彼女は、うっとりと、ため息を吐いている。

セックスする時と同じくらい、いや、ともすれば、それよりも恍惚とした表情で。

「ね……♡別に、貴方を貶めようとか、そんな事を考えている訳では、ないんです……。ただ、少しだけ、ほんのちょっと、お願いを聞いて欲しいだけ……」

──可愛い彼女のワガママだと思って、ね……?♡

ウインクをしながら、口元に指を当て、こちらに流し目を向ける彼女。

確かにその姿だけ見れば、それは小悪魔のようなイタズラを仕掛ける、可愛らしい恋人のじゃれつきにしか思えない。

だが──その手に握られているのは、人間二人分の人生を終わらせるには十分な、実行現場を抑えた、一本のビデオ。

じゃれつきと言うにはあまりに禍々しい、古井戸の底のような昏い情念と、彼女のひたすら闇色の瞳が、僕を針のむしろにするかのように突き刺さる。

傷つけようとする意図なく、しかし、目的のためなら傷つけることも厭わない、そんな歪んだ彼女の信念。

それを、はっきりと示されて──生唾を、飲んだ。

「そう、望みは、一つだけ……♡貴方にとっては何も難しくないことを、望むだけなんです……♡ただ今まで通り、幸せに蕩けていれば、それだけで達成できる、簡単なこと……♡」

分かりきっている、彼女が何を求めているかなんて。

だからこそ、彼女のその落ち着きぶり、恍惚とした表情に、強い寒気を覚える。

「……ずっと、此処に居て下さい♡貴方にとって必要な全ては、私がきっと、用意します♡貴方の全てが、私と暮らす家で、完結できるよう尽くします♡貴方をきっと、これ以上無く幸せにしてあげます♡」

──永遠に、ただ側に居ろ。

私の管理下から逃げるな。部屋に閉じ込められていろ。

つまりは、そういう意味だ。

僕を飼い殺しにして、その異常なまでの執着と偏執で、ただ愛でるだけ。

僕を愛玩動物のように、何不自由ない檻の中で飼いたいと、そう言っているだけだ。

──それは、冗談でも比喩でもない。

夢見がちな女が、構って欲しくて言う、狂ったふりの言葉でもない。

本気だ。その計画は、きっと既に、彼女の中にある。

あとは、それが穏当な手段であるか──強行手段であるか、というだけ。

──もし、そうでなければ。

彼女はただ、ぽつりと呟く。

その表情は、慈愛に染まった微笑みから、ほんの少しもぶれないのが、かえって能面を被っているかのようで恐ろしい。

その先を、彼女は語らない。

私の提案に従わなければ、彼女は何をするのか。

──語るまでもないから、語らないのだろう。

「……どちらが、お好みですか?♡ゆっくり、選んでいいですよ……♡」

その選択の権利は、僕に委ねられている。

そう──全てを破滅に向かわせ、二人で岩を抱いて沈むか。

あるいは、歪で停滞した幸せを、死ぬまで甘受し続けるか。

──脳裏に浮かぶのは、二つ。

心から僕を想って、涙を目に浮かべながら、真っ直ぐに怒ってくれた、友人の張り手。

未だ頬に残る、じんじんしたと痛みは、僕を太陽の下に戻してくれる、唯一の戻り道。

この手を掴まなければ、僕はもう一生、いや、死んでもなお、彼女の腕の中からは、出ることはできない。

そんな気が、する。

それに、彼女の涙を、裏切りたくない。

あれほど、ただ僕を心配してくれたのは、彼女だけだった。

わざわざ僕の家まで出向いて、ただ一言、戻ってこいと言ってくれた、そんな友人の言葉を、まさか無視なんてできない。

最低でも、ケジメだけは、この手で付ける。

そんな決意を、抱かせてくれた。

けれど──それでも、また浮かぶのは、彼女と過ごした幾多もの夜。

色濃く残る記憶を遡り、ただ思い出すだけで、腰骨が蕩け、立ってもいられなくなるほどの──これ以上のものは、この世には存在しないと断言できる、極上の快楽に、いけないとは分かっていても、後ろ髪を引かれてしまう。

乳房に嬲られ、腰を練り付けられ、肢体を絡めさせられ、捻れ絡まった縄のように、ひたすら交わった、その拷問のような甘なぶりの日々。

それを一度でも味わえば、脳を犯して中毒になる麻薬のように──彼女から、抜け出せなくなる。

もう一度、たった一度、彼女の身体を味あわせてくれるならば、僕の人生なんて、喜んで棒に振ってやる。

心の底では、本当は、そう思っている。

ただ、必死に目を逸らしているだけだ。

僕は、心も体も、既に彼女に囚われている。

離れれば、きっと、禁断症状が出るほどに。

「そう、ごゆるりと……♡考えて、考えて……悩んで、悩んで……♡そうして、賢明な判断を、お下しくださいね……♡何せ、貴方の人生を決める、大きな決断なのですから……♡」

彼女は、すぐ側に居る。

離れないけれど、いつものように抱きついて、肌をべっとりと触れさせる事は無い。

──きっと、答えを出すまで、彼女はここを動かない。

動いていないのに、息が上がる。

酸素が、とても薄いような気がしてしまう。

「さあ……♡答えが決まったなら、どうぞ、その口から……♡はっきりと、申し上げてもらわないと……♡」

どうする、どうする。

迷うまでもない答えを、ぐるぐるぐるぐると、考えて、考えて、考えて。

一分経ったか、一時間経ったか、あるいは日が暮れたか。

閉め切っていて、それすらも分からない室内で、時間の感覚まで狂わせながら。

僕は、意を決して、口を開いて──また、金魚のようにぱくぱくと、空気だけをいたずらに吐いて、それを何度も繰り返して。

いよいよ、愛想が尽かされてもおかしくない時間が、きっと経った時。

──僕、は……。

ようやく、彼女の目を見て、言った。

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