通販カタログ(2) (Pixiv Fanbox)
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(2)
一週間後、通販会社から大きな段ボールが届いてすぐ、ぼくは母さんに呼ばれて降りて行った。
「これを注文したの、裕一(ゆういち)?」
いぶかしげに言いながら母さんが段ボールの中から取り出したものを見た時、ぼくはすぐに自分の失態を悟った。
女子小学生用の制服ブラウスに、スカート。
体操着のシャツに、ブルマー。
刺繍入りの紺のハイソックスに、白いシンプルなキャミソールとショーツ。
間違いない。ぼくが先週、女装妄想オナニー用に作ったリストの商品だ。
そしてぼくは、ここで二度目の失敗を犯した。すぐにポーカーフェイスを作って、「知らないよ、通販会社が間違えたんだろ。返品すれば?」と言うべきだったのだ。しかし不測の事態に狼狽しきっていたぼくは、馬鹿正直に思ったことを口に出してしまっていた。
「な、なんで……? もしかして、渡すリストを間違えて……」
「? よくわからないけど、裕一が頼んだものってことでいいのね?」
母さんはそれらをまとめて取り出すと、ぼくの手に押し付けるようにして渡して、
「じゃあ、二階にもってって整理しておきなさい。買ったからには、ちゃんと着なさいね」
「き、着るって、ぼくが、小学生の制服やブルマーを……!?」
またも想定外だった。「何でこんなものを注文したの」と問い詰められ、「こんなものを着るなんてとんでもない、送り返すからね」と怒られるだろうと覚悟していたら――待っていたのはよりいっそう恥ずかしい展開だった。
しかし母さんは首をかしげて、
「着たいから買ったんでしょ? 確かにちょっと恥ずかしいだろうから、外に着て行けとは言わないけど、うちの中ではちゃんと着なさいね。部屋着やパジャマでもいいから」
「う……は、はーい……」
「それと、女の子の格好をするなら、身だしなみにも気を遣いなさいね。ちょっと髪の毛延びてきたし、あとで美容室に行って、切ってもらってらっしゃい」
「え? び、美容室? いつもの床屋じゃなくて?」
「ええ。お母さんがいつも行ってる美容室に、予約しておいてあげるから」
「そ、そこまでしなくても……」
しかしぼくの弱々しい抗弁は母さんの耳に届かず、
「ちゃんとサイズが合うかどうか、試着して確認しなさいね。母さんにも、着てるところを見せてちょうだい」
母さんはそう言い残して、電話機のあるリビングへと立ち去ってしまう。
こうなっては仕方ない。ぼくはがっくりと肩を落として、女子制服と体操着、女児下着のセットを抱え、2階へと上がっていったのだった。
*
「はぁ……」
包装から商品を取り出して、タグが付いているものはハサミで切りおえ、改めてベッドの上に並べた衣類を見下ろすと、ぼくは深々とため息をついた。
「まさかほんとに、着ることになるなんて……ああもう、なんで女装オナニー用のリストを渡しちゃったんだよ……本当は、ちゃんと作ったメンズ服のリストを渡すはずだったのに……これならいっそ、怒られてお小遣いなしとかの方がよっぽどマシだったよ……」
目の前に並ぶ女児服に、背筋がむずむずする。まして今からこれを着るんだと思うと、わっと叫んで走り回りたい気分だった。
「でも、ぼやいてても始まらないし……恥ずかしいけど、覚悟を決めて着るしかないよね、うん……」
部屋着にしているトレーナーの上下を脱ぎ、少しためらった後、トランクスも脱いで全裸になったところで、
「…………ごくっ」
ぼくは震える手でショーツを取り上げた。
足を通す穴の周りと、フロントについたリボンだけが水色のコットンインゴムショーツ。他の色はピンクとオレンジで、一番抵抗がない色を選んだんだけど、やっぱり恥ずかしいことには変わりなかった。
ゴムのせいでくしゅくしゅに丸まっていたそれを広げ、フロントリボンで前後ろを確認して、ゆっくりと穿く。伸縮性のあるコットンの生地が、ふくらはぎから太ももを通過し、最終的に下腹部とお尻をぴったり包み込んだ。その穿き心地は、小学生の頃はいていたブリーフにも似ていたけど、恥ずかしさは段違いだ。
見下ろせば、股間にはもっこりと隠しようのないふくらみが浮かび上がっている。フロントにあしらわれた可愛らしいリボンが、妙に滑稽だった。
「んっ……!」
何も考えないようにして、ぼくは続けてキャミソールを手に取り、頭からかぶる。男子用のランニングシャツと似ているが、顔を撫でる肌触りは圧倒的に柔らかく、肩の部分が紐なのでいっそう頼りない。なにより肌にぴったりで、全身の肌をこする女児下着の柔らかさは、気持ちいいからこそむずむずしてくる。
なにより――
「着ちゃった……女の子用の、キャミソールと、ショーツを……!」
その認識が、ぼくの心を塗りつぶしていくようだった。
(続く)