連載小説「女装強要妄想ノート」(41) (Pixiv Fanbox)
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4月4週目 「女装で駅前に連れ出される」(下)
(1)
妹の亜弓とともに母親に連れられて、駅前へと買い物に来た真弓。
女児服女装ではなく高校の男子制服を着ていってもよいとの話で、すっかり気を緩めていた彼だったが、待っていたのは最初から女装してるよりも恥ずかしい「段々に女装させられていく」シチュエーションであった。男子制服のまま女児用シューズに履き替え、女児下着売り場で下着を交換する羞恥は、萌から女装させられているのとはまた違った辱めだ。
「女児服女装で駅間を連れまわされる」――例の「女装妄想ノート」にそんな一文を書いて、妄想で抜いていた真弓にとっても、また格別だった。
さらに靴と下着だけでは終わらず、
「次はとうぜん、お洋服でしょ?」
母親は当たり前のように、次は女児服ショップへと連れて行くことを宣言していたが――
あれは嘘だった。
「本日の髪型はどのようにされますかー?」
「え、ええと……」
椅子の後ろから正面の鏡越しに覗き込む女性美容師の笑顔に、真弓は顔をひきつらせた。
駅ビル近くにある、オシャレな美容室。ガラス張りで開放感のある店内は、大きな鏡の前に5台のチェアが置かれ、美容師たちがお客のスタイリングをおこなっている。どちらも若い女性が多く、
(うう、オシャレすぎて落ち着かない……!)
日頃は長い付き合いの個人美容室で済ませている真弓にとっては、居心地が悪いことこの上ない。
ならなぜこの店に入ったのかといえば、いまは待合室で雑誌を読んでいる母親と妹が、真弓をこのお店に連れ込んで、とある髪型にしてもらうよう指示したからだった。
つまり――
「……ルで、おねがい、します……」
「え?」
「つ――ツインテールで、お願い、しますっ……!」
絞り出した声に、すぐ後ろにいた美容師さんはもちろん、雑談していた他の客や美容師たちも水を打ったように静まり返って、振り返りこそしていないもののじっと耳をそばだてている。
「…………」
あまりにも気まずい空気に、真弓は真っ赤になって縮こまる。
シューズと下着こそ女児用のものとはいえ、服装はいまだに高校の男子制服。ツインテールを頼むのは、あまりにも奇異である。
(ううっ、こんなことなら、ほんとに最初から女児女装で連れ出された方がましだったじゃないか……!)
太ももの上に置いた手を、ぎゅっと握りしめていると――
「ふふっ、かしこまりました。ヘアゴムなどはお持ちですか?」
職業意識のなせる業か、美容師はニッコリ笑顔を浮かべて、何事もないかのように尋ねる。
真弓は逆に一瞬戸惑ったものの、
「は、はい」
ポケットから取り出したのは――赤いリボンのついたヘアゴム。母親に「これでお願いしなさい」と持たされたものだ。
美容師は笑顔のまま受け取って、
「かしこまりました。可愛く仕上げて差し上げますね。まずは洗髪から――」
そう言ってチェアのリクライニングを下げ、真弓の髪を洗い始めた。シャンプーしながら、好奇心旺盛に話しかける。
「とても長い髪ですね。お手入れ、大変でしょう?」
「え、ええ、まぁ」
「ふふっ、男の子なのにこんなに長く伸ばしてるなんて――やっぱり、女の子の長い髪に憧れてたからですか?」
「う……は、はい……」
素直に答えると、美容師さんはますます嬉しそうに笑った。
「髪が長いといろいろアレンジできて楽しいですからね。ツインテール、三つ編み、ハーフアップ、ポニーテール――おうちでも、可愛い髪形にされてるんですか?」
「その……お、おさげとか、三つ編みとか……」
「まぁ。お客様、とっても可愛いですからお似合いでしょうね。お洋服も?」
「う……は、はい……家では、女の子の、服を……」
恥ずかしさのあまり嘘でごまかすことすら思いつかず、真弓は聞かれるまま正直に答えてしまう。
美容師さんは嬉しそうに、
「ふふっ、それはぜひ見てみたいですね。それじゃあ、シャンプーをお流ししますので、椅子を倒しますね――」
なおも話しかけながら、真弓の髪を覆うシャンプーの泡を洗い流してゆくのだった。
(続く)