「思い出のワンピース」(26) (Pixiv Fanbox)
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「思い出のワンピース」
6.町内でいちばんお姫様(1)
「近所のスタジオで、キッズ撮影の半額キャンペーンをやってるんだって」
夏休み最後の週末、やってきた愛那の言葉に、博希は目をしばたたかせた。
今日も今日とて女児服女装。裾にひよこのアップリケがつけられた水色のシャツワンピースで、太ももの半ばほどまで隠れるくらいの丈だ。すっかり感覚はマヒしていて、このくらいなら普通――というより、長いくらいに感じてしまうようになっていた。
「キッズって――ぼく、高校生なんだけど」
「細かいことは気にしなくて大丈夫。ちゃんとスタジオに確かめて、『博希くんがドレスを着て来るなら半額でとってあげる』って言ってもらったから。お母様も先週から、ドレスを用意してくれてたし」
「ぼく以外への手回しがよすぎる……! こういうのって、まず本人に訊くものじゃ……」
「サプライズってやつよ。さ、行きましょ」
博希の正論をスルーして、愛那はすでに支度を始めていた。
(大丈夫かなぁ……)
強引な幼馴染に引っ張られるようにして腰を上げ、母親にお礼を言ってドレスを受け取って出かける。不安を抱えながらも撮影スタジオに行くと――
「オーナーの橋本です。話は聞いてるわ。さ、こっちにどうぞ」
入ってすぐのロビーで、スタジオ経営者の女性がそう名乗り、ふたりを笑顔で出迎えた。
「博希くんが女の子になったって噂は知ってたけど、ふふっ、本当に可愛くなっちゃったのね」
「う、噂って、誰から……?」
「さぁ、誰かしら? でも、斎藤さんや中森さんが、ずいぶん助かったって聞いたわよ」
「うっ……」
「助かった」と言われて悪い気はしないが、それでもバレエ教室の時のことを思い出すと、あの時の羞恥と罪悪感がよみがえる。
「でも、もし他のお客さんに見られたら、迷惑になるんじゃ――」
「安心していいわよ。どうせ半額セール中でも、くるお客さんはほとんどいないから、貸し切りくらいのつもりでいてちょうだい」
「……はい、ありがとうございます」
そんな挨拶ののち、撮影前の打ち合わせが始まった。どんな衣装で、どんなポーズで撮影するか――
「ドレスの貸し出しもやってるんだけど、さすがに博希くんが着られそうなドレスだと、大人っぽいのばかりになっちゃうのよねぇ。あ、ウエディングとか着てみる?」
「け、結構です!」
けっきょく用意したドレス1枚で撮影することになり、ふたりは更衣室に通された。
そこでついに、母親お手製のドレスとご対面したのだが――
「う、うわぁ……」
今まで女児服での女装と外出を重ねてきた博希ですらも、思わずそんな声を上げてしまうほどかわいい女児ドレスであった。
透け感のあるストライプオーガンジーをふんだんに用いた、ふわふわ、ふりふりとした天使のようなドレス。色はタンポポのような黄色で、ピンクよりもいっそう幼い印象だ。細部に目をやれば襟の首回りや、パフスリーブの袖口にフリルがあしらわれ、スカートもウエストの高い位置から広がる三段フリル。胸元は花レース、腰の左右には大きなリボンがついている。
「これを、ぼくが――」
あまりの可愛らしさに、いまからこれを着ることを考えるだけで、胸が高鳴ってくる。
さらに藍那も、博希の昂奮に火がついたのを見透かして、
「うん。いまからヒロがこれを着て、可愛い女の子になり切った姿を、写真に撮ってもらうんだよ。大きいパネルにしてもらって、額縁に入れて飾ったりしてもいいかもね」
「うぅ……!」
勃起こそしないが軽い絶頂に達し、その内側をくすぐるものがあふれ出して、下着を濡らす。
「さ、まずは脱ぎましょうね。今日のヒロは可愛い可愛い『お姫さま』なんだから、お姉ちゃんが脱がせてあげる」
「う……うん。ありがとう、お姉ちゃん……」
愛那の言葉に、博希は小さくうなずいたのだった。
(続く)