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「思い出のワンピース」(14) (Pixiv Fanbox)

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「思い出のワンピース」   4.小学校に行こう!  住宅街を走る、通学路。  もちろん夏休みのこの時期、ランドセルを背負って学校に向かう児童の姿はほとんどない。たまの登校日や、プールのある日にちらほらと見える程度だ。学期中は朝夕に黄色い声が響き渡る道路も、いまは落ちる影もなく夏の日差しが降り注いでいる。  しかし―― 「久しぶりだね、ヒロ。こうして通学路を並んで歩くのは」 「う、うん……」  その日の朝、一組の「姉妹」が、その通学路を学校に向けて歩いていた。  「姉」のほうは、ポニーテールの女子高生。なかなかスタイルがよく、半袖ブラウスとチェックスカートの制服がよく似合っている。  その隣の「妹」は、今どき珍しい「制服」を着ていた。  大きな丸襟の、シンプルな半袖ブラウス。水色のプリーツスカートは、背中でクロスするタイプの肩紐がついた「吊りスカート」で、背中には赤いランドセルを負っている。中にはちゃんと教科書が入っているのかずっしりと重たげで、片方の隙間からはリコーダー袋の先端が突き出ていた。さらに上履き入れまで準備済みである。前髪には、うさぎのヘアピンを付けていた。  奇妙なのは、古風な服装だけではなかった。身長は「姉」よりも高く、160センチを超えている。さらには、恥ずかしそうに赤い顔でうつむいたり、周りの目におびえるようにきょろきょろしたりと、あからさまに挙動不審だったのだ。  そんな「妹」の耳元に口を寄せ、「姉」は優しく囁く。 「大丈夫よ、ヒロ。外は初めてで恥ずかしいのは判るけど、今のヒロは女の子にしか見えないから、顔を上げて堂々としてたほうがバレないわ」  改めて説明するまでもなく、その「姉妹」は、愛那と博希だった。  ご近所さんに女児服女装がばれ、女装外出の「罰」を言い渡された翌日、母親が通販で注文していた女児服が届いた。  そのうちの一つが、この女子小学生制服だった。 「な、何で小学生の制服を……!」 「いかにも女の子、って感じでいいでしょ? ほら、ブラウスとソックスは洗い替えもあるから、毎日小学校に通えるわよ」 「わっ、いいですね、お母様!」  とっさに言葉が出ない博希をよそに、すぐに反応したのは愛那だった。 「そうだ、せっかくだし、初めての女装外出はこれを着て、小学校に行くっていうのはどう? ちょうど夏休みで、登校日でもなかったはずだから。ランドセルとかは、あたしが使ってたのを譲ってあげる!」 「こ、この女子制服を着て、小学校に……!?」  というわけでその翌日、博希はさっそく小学生の制服に着替え、愛那が持ってきたランドセルを背負って、彼女とともに小学校に通っているのだった。  意外なほど重いプリーツスカートは、丈こそ長いもののやはり頼りないことに変わりなく、しかも歩くたびに太もも全体をこするため、ミニスカートとはまた違った恥ずかしさがある。吊り紐や丸襟ブラウスと相まって女子小学生らしい印象も強く、ランドセルの赤い肩ベルトが、それをさらに補強した。足元も刺繍入りの白いハイソックスに、ピンクのスニーカーと徹底している。  そんな女子小学生スタイルで、通学路を歩かされているのだから、男子高校生の博希としては羞恥の極みである。それでもランドセルの肩ベルトを強く握り、愛那とおしゃべりながら歩いてゆくと、目の前に学校が見えてきた。  道路側に立つ金網と、高いネット。その向こうに広がる校庭と、遠方に鎮座する4階建ての校舎に、 「つ、ついに、来ちゃった……」  緊張に、声が震える。今でもすぐ近くを通りかかることはあるが、女子制服を着ているというだけで夢のような気分だった。  やがてふたりは、校門の前までたどり着く。しかしとうぜん門扉は閉まっていて、その向こうに学校の全景を見渡すことができるだけだ。 「くすっ、どう? 改めて見渡すと、懐かしいでしょ?」 「う、うん。でも、これからどうするの? 学校の中には入れないし――」 「そうなのよねぇ。せっかくなら中に入って、小学生ごっこがしたかったんだけど。ま、こんなご時世だから変質者に入り込まれたら大変だし、仕方ないか」 「残念そうにため息ついてるけど、ぼくも立派に変質者に入るんじゃないかな……?」 「それを言ったらおしまいよ。じゃ、記念写真撮ったら帰りましょっか」 「うん」  通行人から奇異の目で見られつつも、博希は「市立第二小学校」のプレートの前に立ち、愛那に「記念撮影」される。 「これでよし、と。できたらツーショットも撮影したかったけど、こればっかりは仕方ないわね」 「う、うん。もう、早く帰りたい……」  女子制服だけならまだしも、外を連れまわされて人に見られる恥ずかしさにすっかり疲れ切っていた博希は、大きく安堵の息をついた――が。 「なら、先生が撮ってあげましょうか、岡崎さん?」  ふいに校門の中から聞こえた女性の声に、博希と愛那はハッと振り返った。   (続く)

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