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「思い出のワンピース」(2)再掲 (Pixiv Fanbox)

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「思い出のワンピース」  1.10年目のワンピース(1) 「ヒロ、ちょっといい?」  そのとき博希は、1階のリビングでソファに座り、愛那にお勧めされて借りた小説を読んでいるところだった。  顔を上げ、母親が大きな紙袋を持って立っているのを見た彼は、本を閉じてテーブルに置き、 「もちろん。なに、母さん?」 「先週、物置を整理してたらアルバムが出てきたの。見てみない?」  隣に座った母親が、脇に置いた紙袋から革張りのアルバムを取り出した。埃は拭き取られているものの、褪色した表装から年季が入っているのがわかる。  素直に受け取った博希は、めくってすぐに赤ちゃんの写真が並んでいるのを見て、やや鼻白んだ表情になる。 「これ、ぼく?」 「ええ。あなたが赤ちゃんの頃からの成長記録をと思って、写真を入れてたんだけど、ドレッサーと一緒に物置部屋に入れたまま、忘れちゃってたみたいなのよ」 「そうなんだ……自分の昔の写真って、ちょっと恥ずかしいかも」  言いながらも、彼は義理堅くページをめくる。そのたびに母親が「これは何歳ごろ、これはどこに行った時のもの」と、注釈と思い出話を添えていった。家族写真が中心だが、愛奈の姿もあった。  ページも半ばほどまで達し、10年前の日付まで来た時、 「な、何、これ……?」  1枚の写真を見て、博希の声が裏返った。  それは少女ふたりが、水色とピンクの色違いで、おそろいのワンピースを着た写真であった。大きな丸襟と、パフスリーブが特徴の、レトロなカントリー風女児服ワンピースである。  ピンクのワンピースを着ているのは、サイドテールの少女――これは愛那だ。気の強そうなはっきりとした顔立ちは、すでに面影がある。  では、その隣で恥ずかしそうにしている、水色のワンピースを着たおかっぱ頭の「少女」は……? 「こ、これ、まさか、ぼく……?」 「そのとおりよ。おそろいのワンピースを着て、愛那ちゃんと一緒に写真を撮ったの」 「な、なんでそんな写真を……?」 「覚えてない? 愛那ちゃんと、愛那ちゃんのママと一緒にお買い物に行ったときに、愛那ちゃんが買ってもらってたワンピースをうらやましがってたから、色違いで買ってあげたのよ。で、これがその時の服」 「うわぁ……」  母親が紙袋から取り出した小さな水色のワンピースに、博希は何とも言えない声を上げる。かつて自分が着たものだと考えると、恥ずかしくてたまらなくなる。 「さて、ここでヒロに問題です」  母親はいたずらっぽい口調で言うと、まだ何か入っているらしい紙袋の口をいったん閉じて、 「この袋の中に入っているものは、いったい何でしょうか?」 「え……ええと……?」  突然のクイズに、博希は面食らいながらも頭を働かせてヒントを探る。  紙袋の中身は見えないが、表面の様子から硬いものではなさそうだ。さらに先ほど見せられたアルバムと、当時の女児ワンピース。話の流れ上、まるきり無関係ではないだろう。 (そういえば母さん、数日前にぼくの採寸をしたと思ったら、自分の部屋に籠って、何かしてるみたいだったけど)  パッと思いつくのは、趣味の洋裁である。もとデザイナーの母親は自室にロックミシンや手芸用品をそろえていて、ちょっとした服くらいなら型紙から作れるのだ。 (つまり、ぼくの服を作ってた? まさか――) 「も、もしかして、そのワンピースを、ぼくが着られるサイズでリメイクしたのっ!?」  珍しくも声を裏返して叫ぶと、母親は満面の笑みを浮かべてうなずいた。 「ピンポーン! 正解者には、豪華賞品をどうぞ~」  おどけた口調で言いながら、紙袋の中身を取り出したのは、まさに先ほどの水色のワンピース――を、そのままのデザインで大きくしたものだった。  博希はそのワンピースに目が釘付けになったまま、絶句する。 「どう? もとは120くらいのをそのまま160サイズに大きくしただけだから、ちょっと間延びしたデザインになっちゃったけど、これはこれで悪くないでしょ? アレンジもしやすいし、エプロンを重ねたらアリス風に――」 「そ、そうじゃなくて! 何でわざわざ作ったのさ!?」 「それはもちろん――ヒロに着てもらうために、決まってるじゃない。着てくれるわよね?」 「さすがにそれは恥ずかしいんだけど――うう、でも、せっかく作ってくれたんだし……」  博希はしばらく悩んでいたが、やがて赤い顔でうなずいた。 「う、うん、わかった。ぼく――この女児服を、着てみるよ」 「ふふ、ありがとう」  息子の答えに、母親は嬉しそうに笑った。   (続く)

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