連載小説「女装強要妄想ノート」(34) (Pixiv Fanbox)
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4月第3週「パンツルックなら大丈夫だからと、外に連れ出される」
(4)
咲はからからと笑って、
「ま、もうバレてるんだから遠慮しないで、女の子っぽい髪形を注文してちょうだい。今日はどうする? サイドテール、ツインテール、ハーフアップポニーテールに編み込み。お嬢様風のぱっつんロングでもいいし、真弓くんくらい長かったら、何でもできるよ? なんだったら金髪に染めて縦ロールの悪役令嬢風とか、小悪魔風もりもり東京タワーとか」
「し、しませんから! そんな髪型にしたら、学校にも行けないし……っていうか、東京タワー……!?」
「咲さん、ちょっと」
亜弓が耳打ちすると、咲はふんふんとうなずいていたが、
「たしかに、最初はそれくらいがいいかもね。うん、任せてちょうだい。じゃあ真弓くんはこっちに来て、亜弓ちゃんは待っててちょうだいね」
「はーい!」
「え、え……? 結局オレ、どんな髪形にされるんですか……!?」
「それは後のお楽しみよ。学校に行けないような髪型にはしないから、安心して」
果てしなく不安だったが、それでも美容室では美容師の言葉は絶対である。真弓は素直にチェアに座り、まずはいつものように洗髪の後でカットしてもらう。
(はぁ、だんだん長くされていってるなとは思ってたけど、まさか女装願望があることまでバレてたなんて……)
今回も短くはせず、毛先をそろえる程度にとどめる。気づけば背中まで届く、女子でさえなかなかいないストレートだ。前髪もぱっつん気味に切りそろえられて、いつもにまして女の子っぽくされている。
しかし、今回は後ろで雑にくくっておしまいではなく――
「じゃあ、髪形をセットしてあげるから、真弓くんはちょっと目を閉じててちょうだいね」
「は、はい」
ドキドキしながら、真弓は言われたとおり眼を閉じた。
すぐに咲の手が、まずは髪全体を左右に分け始める。ヘアクリップで所々固定しつつ、コームできれいに分け目を作ってから、さらにそれを三つの束に分けて、ときおり引っ張りながら絡ませてゆき――
(こ、これって……!)
いったいどんな風にされているのか、見なくてもわかる。しかし真弓は目を閉じたまま、じっと完成の時を待ち続けた。
一番下まで編みあがったところで、
「兄ちゃん、ポケットに入れたもの、出すね」
「う、うん……」
妹の手がパンツのポケットの中を探り、ついさっき真弓がしまったものを取り出して咲に渡した。
「はい、咲さん」
「ありがとう。あははっ、家ではこんな可愛いのを使ってるんだ」
咲は受け取ったもの――赤いボールのついたヘアゴムで、絡ませた髪の先を留めると、毛先を軽く整える。反対側も同様にしてから、体にかかっていたシートを取り除けられて、最後に結んだ二つを前側に垂らせば――
「はい、完成。もう目を開けていいわよ、真弓くん」
ドキドキしながら、真弓は目を開く。
正面の鏡に映っていたのは――長い黒髪を左右で三つ編みにされ、赤いボール付きのヘアゴムで留めた、自分の姿であった。着ているのがシンプルなシャツとパンツとはいえ、どこからどう見ても女の子としか思えない。
「あ、あ……!」
「どう? なかなか似合ってると思うんだけど」
「は、はい。すごく、可愛くて、女の子っぽくて――」
嬉しい。気に入った。
しかし続く言葉は、恥ずかしさのあまり口には出せない。
それでもじゅうぶん伝わったようで、咲は会心の笑みを浮かべた。
「あははっ、よかった。ちなみに三つ編みも跡が残りやすいから、学校に行く直前にやっちゃだめだよ? 一発でバレるからね? まぁ、それでバレて女装させられるシチュエーションも、真弓くんにとってはいいのかもしれないけど。女子制服を着せられちゃったり――」
「うっ……き、気を付けます……」
想像すると、パンツの中のものが大きくなってしまいそうで、真弓は慌てて言葉を遮る。
「はぁー、久しぶりに若い子の長い髪がいじれて楽しかったー。これからも、よかったらうちに来て髪を弄らせてちょうだい。あたしの練習にもなるし、普通のヘアセットだけならお代はいらないから」
「え……いいんですか?」
「うん。いろいろ試したい髪型もあるし――なにより、真弓くんのいろいろな髪形、見てみたいな。はぁ、次はどんな髪形にしようかしら……」
「お、お手柔らかに……」
咲の勢いにややたじろぎつつも、女の子らしい髪形にされる歓びに目覚める真弓なのだった。
(続く)