連載小説「女装強要妄想ノート」(19) (Pixiv Fanbox)
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3月第4週「妹と一緒に卒服を着せられる」
(4)
「あらあら、いいじゃない、二人とも」
兄妹がリビングに降りてゆくと、ソファでデジカメを弄っていた母親が顔を上げて、満面の笑みで出迎えた。
「真弓ちゃんがスカートで、亜弓ちゃんがパンツ。ふふっ、まるでカップルみたいでいい組み合わせね」
「うう、せめて逆じゃないのかな……」
男子高校生である真弓が、女の子らしい赤のリボンと、スカートのスーツ。
女子小学生である歩実が、男の子っぽい青のネクタイと、パンツのスーツ。
確かに対比と言えないこともないのだが、いろいろとおかしい。さらに、
(カップルだなんて、そんな――)
母親の言葉に先ほどの一幕を思い出し、顔と唇が熱くなってくる。少年に強引に迫られた少女のように、妹に初めてのキスを奪われてしまったのだ。
いっぽうの亜弓は「ふふん」と鼻で笑って、
「でしょ? せっかくだから、ツーショットで撮ってちょうだい」
「ええ、もちろんそのつもりよ」
母親はカメラを持ったまま立ち上がると、
「さ、それじゃあ二人とも、玄関に行って、外に出てちょうだい」
「はーい!」
「え……え!?」
あまりにも当然のように言われて、真弓は耳を疑って立ち尽くす。しかし玄関に向かい始めた妹の姿に我に返り、
「ちょ、ちょっと待って! 外にって、まさかこのまま!?」
「当たり前でしょう? なにか心配でもあるの? ……って、ああ」
母親はようやく気が付いたかのように、胸元で手を合わせる。
その様子に、真弓は少し安堵するが――
「大丈夫よ、ちゃんと靴は用意してあるから。亜弓ちゃんのと違ってヒールは低めだけど、バックルがハートになった可愛いシューズを用意してあるからね」
「そ、そうじゃないってばぁ! こんな格好で外に出て、ご近所さんに見られたら――」
「ふふっ、その時は改めて挨拶すればいいじゃない。これからは女の子として生活しますって。さ、行くわよ」
息子の抗議などどこ吹く風、母親は娘とともに玄関に向かう。
「そんなぁ……」
真弓は情けない声を出しながらも、二人の後を追い――帰宅した時にどかした見慣れないストラップシューズを目にして、ようやく悟る。
「あ、あのシューズ、もしかして、オレの……?」
「ええ、そうよ。亜弓ちゃんはボーイッシュなブーツだけど、真弓ちゃんはああいう女の子っぽい靴の方が好きでしょ?」
「う……それは、そうだけど、でも外に出るなんて、オレ――」
「大丈夫だって。玄関先でならそんなに見られることもないし、見られてもあたしの友達だって思ってもらえるわよ。むしろ、ちゃんと女の子らしい口調にならないと、そっちの方が危ないんじゃない?」
「うっ……は、はいぃ……」
妹のもっともな指摘に、真弓は渋々うなずきながらシューズを履く。足の甲の部分がストラップになっている以外は、男子用とほとんど変わらない――かと思いきや、
「なんだか、かかとが浮いてるような感じがする……!」
「くすくすっ、あたしのブーツほどじゃないけど、ヒールがついてるからね。あっ、でもそれを履けば、いつもより背が高く見えるんじゃない?」
「あっ、それはいいなぁ……普段から履けば、背が高く見える……?」
妹の言葉に、身長がコンプレックスの真弓は思わずそんなことを考えてしまうが、
「見る人が見ればすぐわかっちゃうし、女子用のシューズだってのもバレバレだよ?」
「……やっぱりなしで」
言いながら立ち上がると、やはりヒールに違和感はあるが、視線は少し高くなったような気がする。
いや、正確に言えば、ヒールなどよりはるかに気になるのが――
「ほ、ほんとに、オレ――じゃなくて、わ、わたし、この格好で、外に……!?」
女子用の、スカートスーツ。レースのついたブラウスに、紺のジャケットと、赤系チェックのリボンとひざ丈スカート。
何度か女装してきた真弓とは言え、外に出るとなると緊張と羞恥の桁が違う。青ざめた顔でガクガクと震えながら、外へとつながる扉を見つめていると――その彼の手を、亜弓が握り、安心させるように笑いかける。
「ちゃんと女の子に見えてるから大丈夫。堂々としてれば逆にバレないから、あとは度胸だよ、真弓ちゃん。ほら、顔を上げて、胸を張って」
「う、うん……!」
背筋を伸ばした真弓の前で、ゆっくりと、扉が開いてゆき――
(続く)