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連載小説「女装強要妄想ノート」(18) (Pixiv Fanbox)

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3月第4週「妹と一緒に卒服を着せられる」   (3) 「い、一応、身だしなみを確認しないと……」  ドキドキしながら、姿見に向かう。  恐る恐る鏡面を覗き込むと――そこに立っていたのは、妹以上に女の子らしい、卒業スーツに身を包んだ「少女」の姿。とてもそれが、来月には高校2年生になろうかという少年とは思えない。 「そうだ、髪も……」  背中に垂らした髪を後ろでまとめているゴムを引き抜くと、艶やかな黒髪が大きく波打ちながら広がって、いっそう女の子らしくなる。手櫛を通して横髪の一部を前に垂らして胸元にかかるようにすると、 「なんだか、楽しくなってきちゃう……」  リボンやヘアピンをつけたり、三つ編みにしたら似合うかもしれない――鏡を覗き込みながらそんなことを考えているところへ 「へぇ、やっぱり似合ってるじゃん。鏡を覗き込んで、髪形も女の子っぽくしたいのかな?」 「あ、亜弓!? これは、その――!」 「今さら誤魔化さなくってもいいのに。でも、へぇ……」  亜弓はジロジロと、すっかり変わり果てた兄の姿を上から下まで見つめる。いや、その目つきは、妹が兄を見るものではなく―― 「なかなか可愛いぞ、真弓」 「っ!?」  ふいに低くなった妹の声に、真弓は雷に打たれたように体を竦ませる。  上目遣いに彼女を見れば、凛々しい顔立ちにショートカット、美少女と言うより「イケメン」寄りのその美貌に、クールな笑みを浮かべていて―― 「あ、あの、亜弓……?」 「あははっ、いまの声、ちょっと男の子っぽかったでしょ?」  いつも通りの表情に戻って、亜弓はケラケラと笑う。  真弓は胸をなでおろし、 「う、うん。脅かすなよ、もう……」 「そんなに怯えなくてもいいのに。それとも――期待してるのかな?」 「き、期待って、いったい、何を……」 「それはもちろん――こういうことさ」 「ひっ……!?」  ふいにぐっと近づいてきた妹の顔に、真弓は反射的に逃げようとする。 しかし彼女は兄の腰を左腕で抱え込むと、右手で顎をつまんで上を向かせ、さらに顔を近づけてきて―― 「そんな目で見られたら――我慢できなくなってしまうだろう?」 「んっ……!?」  唇を、ふさがれた。 柔らかくも熱い粘膜同士の密着に、 (キ――キス、されてる……!?)  状況を理解しながらも、あまりにも非現実的な展開に脳が一切動かない。兄妹でキスすることの背徳を思っても、今の状況はあまりに非現実的だ。 妹から兄への接吻――しかし兄である自分の方が、強引なイケメンに唇を奪われた少女そのままに、胸の高鳴りを覚えてしまう。 永劫とも思える思考の空白も、実際にはほんの一瞬のことでしかなかった。 「くすくすっ、ごちそうさま」  顔を話した時にはもう、妹はいつも通りのいたずらっぽい表情に戻っていた。 「どう? キスのお味は?」 「ど、どうっていわれても――よくわからなくって……」 「おや、それは残念だ。なら、もう一回しっかり……」 「しないから! っていうかそのイケボ演技なに!?」  妹の腕から逃げ出して距離を取ると、 「あははっ、なかなか様になってたでしょ? 中学に上がったら、王子様キャラで行こうかな」 「どうせすぐにボロを出しそうだけど」 「ちぇー。ま、真弓ちゃんの反応が面白かったからよしとしますか。まずは下に降りて、ママに記念写真を撮ってもらいましょ。ね、真弓ちゃん?」 「うん……」  少年のようにふるまう妹と、少女のようにふるまう自分――双方に不安を覚えながらも、真弓は妹に言われるがまま、リビングに降りてゆく。 (ファーストキスだったんだけど、なぁ……まさか妹に、しかも、あんな形で奪われるなんて……)  どんどん兄として大事なものを失っていくような気がして、真弓はこっそりため息をつくのだった。  ……唇には、まるでやけどをしたかのような熱が、いつまでも残っていた。   (続く)

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