連載小説「女装強要妄想ノート」(5) (Pixiv Fanbox)
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(5)
結論から言うと、彼の想像したとおりだった。
今度は和室ではなく、ふだん食事している洋室のダイニングテーブルに置かれたキャンパスノートに、
「やっぱりそのノート……!」
「ええ。だめよ、こういうものは、ちゃんとしまっておかなくちゃ。机の上に出しっぱなしだったわ」
「だからって、読まないでくれよ……」
ちょっと恨みがましい目を向ける真弓だったが、母親は平気のへいざで、
「それにしても、ずいぶん可愛くなったわね。どう? 女の子になった気分は?」
「す――すごい、恥ずかしい……けど、ドキドキして、悪くない気分……」
「ふふっ、よかった。ママがもっとかわいくしてあげるから、こっちにいらっしゃい」
「うん……」
素直にダイニングのチェアに座ると、母親は正面に立って、息子の髪を止めているゴムをほどきブラッシングしはじめた。
「真弓の髪は綺麗で長いから、ブラッシングし甲斐があるわ。こっそりママのシャンプーとかを使ってたおかげかしら?」
「うっ……それも、バレてたの……?」
「もちろん。前から減りが早かったもの。亜弓は使う子じゃないし」
「だって面倒くさいもん。短いほうが乾くの早いし、動きやすいし」
「長いほうが面倒なのよね、髪って。真弓は『切りに行くのが面倒』って言ってたけど、やっぱりそれも、女の子っぽくしたかったから?」
「う……はい……」
ごまかしきれず、真弓は真っ赤な顔で肯いた。
母親はくすくす笑って、
「はい、出来上がり。顔は……うん、お化粧しないほうが、それっぽいわね。じゃあ、鏡を見てごらんなさい」
「うん……」
真弓は緊張に喉を鳴らして立ち上がると、リビングの一角に置いてある大きな姿見の前に立ち――ただでさえ大きい目を、いっそう丸くする。
「これ……ほんとに、オレ、なの……?」
女児用のカットソーと、赤いジャンパースカートを着た自分の姿は、どこからどう見ても女子小学生で、真弓自身でさえ絶句するほどだった。もともととても男子高校生に見えるとはいえず、制服を着ていてさえも妹が兄の制服を着せられているようにしか見えなかったのだ。まして長く伸びた髪を垂らし、綺麗にくしけずった後だと、
「あははっ、ほんとに年下の女の子にしか見えなくなっちゃった。んー、でも、足はもうちょっと閉じたほうが女の子っぽくていいんじゃないかな。爪先を内側に向けて――」
「こ、こう?」
「そうそう、いいわよ、兄ちゃん。くすくすっ、すぐにやってくれるなんて、兄ちゃんほんとに女の子になりたいんだね」
「それは……その、こんな格好してるんだから、逆に女の子っぽくしないとおかしいかなって思って……」
「言い訳するところも可愛いなー。じゃあ、そんな格好してるんだから、兄ちゃんじゃなくて『真弓ちゃん』って呼んでもいいよね?」
「えっ……ま、真弓ちゃんって、それは……」
いよいよ妹扱いに、真弓は耳まで真っ赤になる。
母親は兄妹の――いや、姉妹のじゃれ合いを嬉しそうに眺めて、
「ふふっ、ふたりとも楽しそうでよかったわ。じゃあ真弓、とりあえず今日いちにちは、その格好で女の子として過ごしなさい。『雛祭りなんだから』、ね?」
「うっ……は、はい……」
「それと、これからは、ノートはリビングに置いておくから、今後も思いついたら書き足しておいて」
「えぇっ!? こ、ここに置くのは、いくらなんでも恥ずかしすぎるんだけど――」
「その方が便利でしょ? 母さんや亜弓がそれを読んで、希望通りのシチュエーションで女装させてあげられるんだから」
「うう……自分でお願いするのと大して変わらないし、なにが来るかわからないから余計にドキドキする……」
「ふふっ……そうそう、亜弓も、ノートにあるからって最初からあんまりハードなのにはしないでおくように、ね?」
「はーい! 最初はソフトなのからゆっくりと、ね」
「ええ。わかってくれていてうれしいわ。じゃあ次は――」
妙なところで意気投合しながら、さっそくソファに並んでノートを読み始め、あれやこれや相談しはじめる母と妹に、真弓は溜息をつく。
(まぁ、いきなりハードなプレイをされるよりはましだけど……)
ノートを発見され、女装願望を知られて、いったいどんな目に遭わされるのか――今の真弓にはまだ、知る由もないのだった。
(続く)