連載小説「女装強要妄想ノート」(4) (Pixiv Fanbox)
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(4)
「……………………」
初めてのスカートに、息を詰める。
そろそろと足を入れると、とたんにサテンの滑らかな肌触りが足を撫でて、背筋を戦慄が這い上がった。
「うっ……!」
足を引きたくなる気持ちをぐっとこらえ、逆に勇気を振り絞ってスカートの内側へと踏み込む。右足が入ったところで左足も入れ、ゆっくりとジャンパースカートを持ち上げてゆき――
「お、おおっ……!」
己を鼓舞するように雄叫びを上げつつ、真弓はついに、スカートを太ももまで引き上げた。そのまま左右の袖に腕を通し、肩まで引き上げてから、襟足のホックを留める。
「はぁっ、はぁっ……!」
全力疾走したかのように荒い息をつき、仕上げにかかった。
腰の後ろにある、コンシールファスナーの把手。それをつまんで、ホックまで引き上げる。
ぢぃっ、と金具が噛み合う音とともに、ジャンパースカートが体に密着してゆく。ヒップ、ウエスト、アンダーバスト、そしてトップバスト――ついに一番上まで到達した瞬間、
「オレ、ジャンパー、スカートを、着ちゃった……!」
達成感と昂揚感、そして禁忌を犯した背徳感に包まれて、真弓は陶然とつぶやいていた。穿き心地に昂奮してもっと確かめたくなり、部屋の中を歩き回ってみたり、裾をつまんでみたりする。
「ううっ、確かにこれ、すぅすぅする……膝までしかないし、歩くと太ももが当たるし……女の子って、こんな格好で外を歩いてるんだ……」
改めてドキドキする真弓だったが、これで終わりではない。
最後に残っていた、ニーソックスを履く。ただの靴下と言え、白とピンクのボーダー柄にレース付き、とどめに膝を越えるオーバーニータイプだ。女の子用のものであることをこれ以上なく意識させられ、締め付けさえも官能的だった。
「はぁっ……これで、よし……でも……」
この部屋には、大きな鏡がない。男物の服の時には、オシャレになどほとんど気を使ってこなかった真弓は、必要性を感じていなかったのだ。
「へ、変じゃないかな……っていうか、変だよね……男子高校生のオレが、女児服なんか、着ちゃってるんだから……」
着替えは完了したもののいまだ外に出る勇気がなく、入り口のあたりで犬のようにくるくる回っていると、
「ふふーん、じゃあ、あたしが確かめてあげる!」
快活な声とともに再び扉が開き、またも入ってきたのは妹の亜弓。
彼女はすぐに兄の姿を見つけて目を丸くすると、
「あらお嬢ちゃん、かわいいわねー。ちょっと聞きたいんだけど、この部屋にあたしのお兄ちゃんがいるはずなんだけど、知らないかな?」
「お、オレだよ、オレ!」
「あははっ、冗談冗談。へぇー、でも一瞬、『えっなんでこの部屋に女の子が!? もしかして兄ちゃんが連れ込んだの? 兄ちゃんってロリコン!?』って思っちゃった程度には、似合ってるわよ」
「なんだよ、それ……」
「とにかく変じゃないから、安心して下りてきて大丈夫よ。兄ちゃんなんだから、覚悟を決めなさい」
「この格好で兄なんだからって言われても……あ、ちょっと待って」
ふとノートの所在が気になり、博希はいつもしまっている学習机の一番下の引き出しの底を探る――が、やはりない。
(母さんがここまで開けるってことは考えにくいから、置きっぱなしにしたのを母さんに見つかったのかな……そういえば今朝も思いついて書き込んだ後、登校時間が近くてバタバタしてたし……はぁ……)
自分の粗忽を恨みつつ、
(でも……こんな風に着せてもらえるなら、見つかってよかったのかも――)
「さーさー、下に降りて、ママに見せに行くわよ。こんなに可愛くなりましたって」
「う、腕を引っ張るなよ! っていうか歩実、何でそんなうきうきしてるんだ!? オレが女の子の格好してるのが、そんな面白いか!?」
「もちろん。これでもう、あたしがママに可愛い服を着せられることもなくなるだろうし、それに――」
「それに?」
「なんだか妹ができたみたいで、嬉しいなって」
「う……」
手を引っ張って廊下へと連れ出しながら言う妹から、真弓は赤い顔を背けるのだった。
(続く)