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連載小説「女装強要妄想ノート」(1) (Pixiv Fanbox)

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3月1週「雛祭りを口実に、女装させられる」   (1)  彼には、誰にも言えない秘密のノートがあった。  勉強机の引き出しの一番下、その奥底にこっそりと置いてある、一冊のノート。  そこに書かれている内容は――   * 「ただいまー」 「お帰り、真弓。手を洗って鞄を置いたら、和室にいらっしゃい」 「うん」  学校から帰宅してすぐ母親に呼ばれ、佐々木真弓は和室に上がる。  和室というのは1階の隅にある、4.5畳の部屋だ。中央にテーブルと、それを囲むように座布団が4つ置かれていて、小学6年生の妹が座ってスマホを弄っていた。 「ただいま、亜弓」 「おかえり、兄ちゃん」  ここ最近、反抗期気味の妹と挨拶を交わしてから、真弓は改めて和室を見回し――すぐに、今日の日付を思い出した。 「雛飾り、出したんだ。そういえば今日は雛祭りだったね」 「ええ。お母さんが実家から持ってきたものなんだけど、なかなか立派でしょう?」  和室の一角に据えられていたのは、今どきは珍しくなった、本格的な雛飾りである。最上部の金色の屏風の前に、お内裏様とお雛様。赤い毛氈が敷かれた雛段には、三人官女と五人囃子、右近の桜に左近の橘。女の子の誕生を祝い、成長を願う上巳の節句にふさわしい絢爛だ。 「うん。でも、なんで急に?」 「ふふっ、あとで判るわ。亜弓ちゃんは、あんまり興味なさそうだけど」 「あたし、そういう女の子っぽいのは好きじゃないって、ママも知ってるでしょ」  妹の答えは素っ気ない。  陽に焼けた顔は少年のように引き締まっていて、髪も少女らしい艶やかさはあるものの、ベリーショートに近い短さだ。背丈も6年生になってから急に伸びて、150センチを超えていた。着ているのがガールズの長袖ロングTシャツと、七分丈のデニムパンツでなければ、男の子と思われても不思議ではない。 彼女は雛飾りには目もくれず、机に頬杖をついて、しきりにスマホを弄っていた。 「あら残念。じゃあ、お兄ちゃんでお祝いしましょっか?」 「お、オレは男なんだから、そのほうが変だろ」 「いいじゃん、あたしよりお兄ちゃんのほうが可愛いんだから、女の子ってことでお祝いしてもらえば」 「ふふっ、確かにお兄ちゃんのほうが可愛いし、背も低いし、髪も長いし、女の子っぽいって言ったらそのとおりね」  母親の含み笑いに、真弓は顔を赤くする。  並ぶとよく似た、ふたりの兄妹――どちらもなかなか整った顔立ちではあったが、気の強そうな男前の妹に比べて、兄のほうは柔弱な印象である。しかも母親の言うとおり、真弓のほうが背が低い。高校2年生の男子でありながら、140センチをちょっと超えた程度しかないのだ。髪に至っては、首筋で束ねた髪の房が肩甲骨の間にまで届いている。妹とは逆に、着ているのが高校の男子制服でなかったら、彼のほうが妹に思われてしまいそうなほどだった。 「亜弓――母さんまで……」  妹と母親に冷やかされて、真弓は赤い顔で二人を睨むが―― (母さん、どうしたんだろう。普段はオレのこと、女の子っぽいって揶揄うことなんてないのに) (でも、なんだかこの流れ……) 「それでママ、あたしたちを居間に呼んで、何の用なの? あたし、もう自分の部屋に戻りたいんだけど」 「もう、亜弓ったらせっかちなんだから。じゃあ、これを見てくれる?」  母親は苦笑しながらも、先ほどからテーブルの上に置かれていた紙袋を開けて、中身を取り出した。  それは、ブランド物女児服のコーディネートセットであった。  一枚は、ややクリーム色がかったオフホワイトの、長袖カットソー。タートルネックや袖口の折り返しにはピンクのリボンがついていて、肩の部分はふんわりとしたパフスリーブになっている。胸元にはレースを重ねた、シンプルながらも上品なデザインだ。  もう一枚は、原色に近い赤色のジャンパースカートだった。肩紐の左右やスカートの裾にフリルがあしらわれ、胸元には白いボンボンがついた蝶結び。レースがついた左右のポケットはハート形になっていて、中央に「Angelic Baby」のブランドロゴが、白い文字で書かれていた。  さらにそれに合わせるように、白とピンクのボーダーニーソックス。履き口はレースになっている。 (え……? この、流れって……!)  そのセットアップを見て、真弓の心臓が、大きく跳ねた。   (続く)

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