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SS「悪夢の入学式」(3) (Pixiv Fanbox)

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  (3)  外に出ると、風が腰回りのスカートを揺らす。  女の子であれば裾を押さえるところだが、そもそも太もももパンツも最初から丸出しの状態で、隠す以前の問題だ。恥ずかしさに逃げ出したくてたまらなかったが、俺の体は玄関からステップを踏んで門扉の外に出ていた。  表はガードレールもないような、片道一車線の狭い生活道路だったが、通行量はそれなりにある。行きかう車や人の視線が、容赦なく俺に向けられていた。  恥ずかしさにお尻をむずむずさせながらも、その場で「ママ」を待っていると、 「まぁ、アキラくん」  お隣の奥さんが、困惑の表情で話しかけてきた。 「どうしたの、その格好? まるで女子小学生の入学式みたいだけど」 「はい! これから、入学式なんです!」  今すぐ逃げ出したい気持ちとは裏腹に、俺の口は、元気よく答えていた。 「そ、そうなの。頑張ってきてね」 「はい! ありがとうございます!」  本当に女子小学生になってしまったかのように答える俺に、奥さんは引きつったような笑顔を浮かべて家の中に戻っていった。完全に、自分のことを女子小学生だと思い込んでいるヤバい奴だと思われている。  俺だって、好きでこんな格好をしているわけじゃないのに―― 「お待たせ、お兄ちゃん」  内心ひそかに唇を噛んだところへ、妹がやってきた。  上品なピンクグレーのジャケットとタイトスカート。ブランド物のショルダーバッグに、胸元には真珠のネックレス、足元はヒールのついたパンプス。そのいでたちはまるで、娘の入学式に付き添う母親そのままだ。いつもはツインテールの髪も、ヘアピンで上品にまとめている。  男子高校生の兄である自分が、丈の足りない女児用入学スーツを着て。  女子小学生の妹が「ママ」として、保護者のようなレディーススーツを着て。  もはやあべこべとすらいえない格好だったが、妹は何一つおかしなことなどないかのように俺に向かって手を差し出し、 「さ、ママと一緒に、入学式に行きましょうね」 「うん!」  俺は元気よく答えて、「ママ」の手を握り――手をつないで、小学校へと歩き出していた。   * 「令和*年 **市立第三小学校 入学式」  校門のプレート横には、そんな看板が立てかけてあった。  その前で、新入生の少女たちと保護者が次々と記念撮影している。その近くには順番待ちの親子連れが、互いに挨拶を交わしていた。  俺たち以外の親子連れは、ごくごく普通の新一年生だ。幼稚園を出たばかりの少女たちが色とりどりの女児スーツを着て、ピカピカのランドセルを重たげに背負っている。  本当に、あの中に加わるのか――  羞恥を通り越した緊張に、陰嚢が締め付けられる。しかし「ママ」は臆することなく俺の手を引いて近づいてゆき、 「こんにちは」  親子連れグループに、話しかけた。  談笑していた3組ほどの親子連れは振り返ると、ギョッとしたような表情を浮かべながらも挨拶を返す。 「え、ええ、こんにちは」 「初めまして、塚原と申します。うちの子もこの春入学なので、どうぞ仲良くしてやってください」 「塚原アキラです! よろしくお願いします!」  「ママ」の挨拶に、俺も自己紹介する。 「ええ、よろしく」  母親たちは困惑しながらも、無難な挨拶を返す、が―― 「ねぇねぇ、どうしてお兄ちゃんなのに、小学生なの?」 「何でお兄ちゃんが、女の子のスーツを着てるの?」 「どうしてパンツまるだしなのー?」  少女たちの無邪気な疑問に、空気が凍る。  しかし――俺は笑顔のまま、こう答えていた。 「えっとね、女の子になりたかったから、小学校に入学させてもらったの! パンツ丸出しなのは、可愛いパンツを見てほしいなって」 「へぇー、そーなんだー」 「本当はお兄ちゃんなのに、女の子になりたかったんだぁ」 「パンツ、見てほしいんだぁ」 「うん! よろしくね、アキラちゃん!」  クスクスと小馬鹿にしたような笑いを漏らす少女たちに、内心ゾッとしながらも――俺はにっこり笑って、肯いていた。 「うん、よろしく!」   (続く)

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