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「思い出のワンピース」(6) (Pixiv Fanbox)

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「思い出のワンピース」  2.幼馴染は見た(1) 『ヒロ、さいきんゴキゲンだよね』  8月初旬の、昼下がり。  幼馴染の岡崎愛那とアプリで通話しながら勉強していた博希は、彼女の指摘にギクリとする。 「あ、あはは、そうかな……?」 『そうよ。口数も多くなったし、よく笑うようになったし。なに、いいことでもあったの?』 「べ、別にそんなことはないって。ほら、夏休みだから――あ、ちょっと母さんに呼ばれたから、離席するね」  隣の部屋から呼ぶ声に、博希はこれ幸いとばかり通話を切って立ち上がった。  愛那の指摘に適当なことを言ってごまかした博希だったが、思い当たる理由はあった。  5日前、母親に半ば無理やり着せられた手作りの女児服。そのワンピースを、博希は今も着て勉強しているのだった。下着も靴下も、もちろん女児用のものだ。もちろん愛那には言っていない。 (自分では意識してなかったけど――ぼく、女児服を着てると機嫌がいいのかな)  男子高校生にしては変だと思いつつも、隣室――母親の私室の前までやってきて、 「お待たせ、母さん」  ドキドキしながら、ドアを開ける。  呼ばれたときから、その理由はおおよそ見当がついていた。何しろ前回から再び、母親は自室に籠って何か作っている様子だったのだから。つまり―― 「か、可愛い……!」  部屋の中央――母親の前のトルソーが着せられている「新作」を見て、博希はつぶやいた。  赤いギンガムチェック柄のジャンパースカート。これまたシンプルなラインで、ウエストとボックスプリーツの裾は無地の切替えになっている。  その下に重ねているのは、丸襟のパフスリーブブラウス。襟のふちや、パフスリーブの袖口に、大きめのレースがあしらわれていた。さらに襟には、赤いギンガムチェックのリボンがいくつも縫い付けられている。 「すごい……ブラウスも、ジャンパースカートも、ふりふりで、女の子っぽくて――」 「ふふっ、気に入ってくれたみたいね」  息子の賛嘆の声に、母親は満足げに鼻息をついて、 「ブラウスのベースは既製品だけど、女児服ブランドのお洋服を参考に、襟にリボンをつけてジャンパースカートと合わせてみたの。博希はこういういかにも女の子っぽいデザイン、好きでしょ?」 「う……うん。ありがとう、母さん」  直截な指摘に恥ずかしくなる博希だったが、否定はできない。なぜならば―― 「やっぱりね。ふふっ、そのワンピースも、洗濯しているとき以外はほとんどずっと着ててくれてるものね」  改めて言われると恥ずかしくなり、博希は真っ赤になってうつむいた。 「さ、それじゃあ前置きはこのくらいにして、さっそく着てちょうだい」 「はーい」  博希はうなずいて、さっそく着替えにかかった。  まずはワンピースを脱ぎ、ブラウスを羽織る。パリッとした肌触りは男物のシャツとも似ていたが、パフスリーブの袖口がきゅっと絞られているうえ、フリルがついているのがいかにも女の子向けらしくてドキドキする。まして大きな丸襟と、そこにたくさん縫い付けられたギンガムリボン、縁取りのレースは言うに及ばず、だ。  そして、本命のジャンパースカート。  その左脇についているファスナーを大きく開くと、目の前に広げた。内側に縫い付けられたサテンの裏地が、艶やかな光沢で彼を誘惑する。 (ああ、女の子の服に、包まれてゆくっ……!)  ワンピースを着た時にも感じた戦慄に胸を躍らせながら足を通し、肩紐に腕をくぐらせると、ファスナーを閉じていった。  背中側がシャーリングになっていて、若干の伸縮性はあるとはいえ、前回のワンピース以上にボディラインに合わせたつくり。脇の下からウエストにかけて締め付ける着心地は、ややきつく感じるが、決して悪い気分ではなかった。  そして、そのウエストから広がるスカート――上半身に比べて圧倒的に頼りない穿き心地に、羞恥心が疼く。見下ろせばフリフリのブラウスと赤のギンガムチェック、腰から広がるボックスプリーツスカートと、申し分ないほど可愛らしい「少女の装い」で―― 「どう? 今回のジャンパースカートの着心地、気に入ってくれたかしら?」 「う、うん。とっても」  ジャンパースカートの裾をつまんでふわりと広げながら、博希は上ずった声で答えた。   (続く)

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